広い大地を馬が走る。
天気は快晴、風もなし。見晴らしがいい事に変わりはないが、向こう側からしてもこちらを捕食するには絶好の環境下だった。
ただ走っているだけでは退屈だから話しでもしようか。あるまじき考えを思い付いた時、放物線を描いて打ち上げられた黒い煙弾が見えた。
「奇行種…ん?あれ!?」
同じ煙弾を打ち上げようとした所でその腕は止まる。馬だけじゃこんな足音にはならない。手綱をしっかり握って後ろに振り返るとやはりお出ましだった。
「うへぇ!マジか…!」
隠すことなく項垂れる。
拠点という目的地間近で襲ってくるのホントやめろ。あぁもう。愚痴をボロボロ吐き出しながらもブレードに手を掛ける。隣の兵士は既に殺る気に満ち溢れていて…理由はこちらと同じだな。巨人相手に露骨に出しすぎだとは思うが抑えられる人でもないから仕方ない。
「どうする?」
「レイ、アンタは項」
「はいよ」
何の合図も無しに一斉にアンカーを発射させる。そこからはもう一瞬の出来事だった。2人の着地と共に巨人が地面に倒れる。大きさ故に砂埃が盛大に舞った。
「ちょ、砂っ…!ゲホッ!ぶえっくしょい!」
「汚いわね」
「ごめんごめん!」
「ほら、ちゃっちゃと行くわよ」
「おう」
*
調査兵団兵舎
「ハンジさん…あの、リヴァイ兵長って…」
「ご存知の通りオカマだよ。いつからかは知らないけど」
「へ、へぇやっぱり…あ!そういえばレイ分隊長とよく一緒にいるの見かけます」
「彼の補佐官がレイだからね。元々2人は調査兵団に来る前から知り合いだったし」
人類最強なのにオカマでぶっ飛んでる兵士長のリヴァイと、彼を兄さんと呼んで慕うバカで明るい分隊長のレイ・ローゼンハイムは調査兵団でも特に異彩を放ってる。アハハ!それにしても新兵からしたら強烈なインパクトだろう。
「そうなんですか?」
「聞いたら色々教えてくれると思うよ」
さて、その2人は今頃どうしてるかな?
「レイちゃぁぁん?」
「お?」
名前を呼ばれたと同時にレイの顔スレスレにブレードが投げられ後ろの壁に突き刺さった。あらぬ速さで歩み寄ってきたリヴァイの瞳孔は半端なく開いている。
「ヒィィィィ!!」
「アタシが紅茶好きなの知ってるわよね?」
「知ってるけど何どうした…!?」
「じゃあこの缶、アンタが買ってきたのは何色かしら?」
「は?」
目の前に出された缶はそりゃもう誰が見ても赤だった。それがどうここまでのご乱心を引き出しているのかワケが分からん。
「…赤?」
「そうね」
「コレ兄さんがいつも飲ん「クソガキ、誰がいつコーヒー飲みたいっつった?」
はて?コーヒー?リヴァイはレイに見えるよう缶の底に貼られたラベルを見せた。コーヒー豆と思い切り書かれている。やべぇ…!やべぇ!あの時てっきり赤缶も青缶も同じだと思って確認せずテキトーに取ったヤツを買ってきてしまったんだ兄さん!!とは口が裂けても言えない。しまったやらかした俺!!
「えっと、コ「言ったよな?紅茶買ってこいって言ったよな?」
「いいい言った…!」
「それが頭の足りねぇテメェに任せたらコーヒーと来たもんだ」
「ストォォップ!兄さん聞いてくれ!」
「あ?テキトーに選んだ事についての言い訳か?」
「そうそれ!アッ、違ぇ!今のナシ!」
「ねぇ?今すぐ買ってきてくれる?」
「わかった!わかった兄さんだからもうわかった!もういいか「そうしないと」
「発言被せ過ぎ!!」
「レイちゃんの足と足の間にあるアレ、握り潰しちゃうわよ☆」
「イギャァアァアァ!!」
「おっと」
飛び出してきた補佐官を避けエルヴィンが部屋に入ると、そこには不機嫌にコーヒーを飲んでいるリヴァイがいた。眉間にシワが寄っている。
「珍しいな」
「バカが間違えたの」
「レイらしい」
「コーヒーと紅茶の区別もつかない20代がどこにいるの恥ずかしい!飲み切れないからアンタも飲んで」
「はは、頂くよ」
「召し上がれ。火傷しないでね」
それにしても本当に苦いったら!
レイのクソ野郎、余計なことしやがってカフェインの摂り過ぎで寝れなくなるじゃない!
でも最高よありがと!
帰ってきたら一から躾し直してあげるわ!
これはそんな不思議な2人と調査兵団兵士達の話である。
「続くの?」
「どうかしら」
「これだけじゃ兄さんがただの変態で終わるよな」
「そうね、まずアンタ削いであげる」