ねぇウォール・マリアの遥か北にある国のこと知ってる?名前はド忘れしちゃったんだけど。国?そもそも壁の中以外は巨人にやられちまったことくらいテメェも承知のはずだ。まぁまぁそれはさて置きとりあえず最後まで聞いてよ。見張りながらでも耳は動くでしょ?その国は魔法、錬金術にはたまた禁断の人体錬成までもが盛んでここいらじゃまず見られない発明品がたくさんあって全ての英知が集まる場所、とも言われてるんだってさ。え?何その顔、それだけだけど?誰かの創り出した妄想に浸ってる暇があるなら一匹でも多く巨人を削げクソメガネ。妄想なんてどうして断言できるのさ!とまぁ本当に伝説みたいだけどね。それ以上の情報ないし。もう滅んだとも言われてるし。でもあるって思ったら楽しくない?どこかにその滅んだ国の生き残りがいたりして!そしたら錬金術の事とかあれやこれや聞いてみたいなぁ!くだらねぇ。どこまでも頭ん中クソだらけだな。おっ!思い出した!その国の名前はね、


見渡す限りに高く生い茂る木々の中。
何処へ行ったのだろう。あの見たこともない巨大な生物たちは。傷だらけの足を奮い立たせるように叩いて、右も左も分からぬ真っ暗闇な森をただひたすらに進む。どうしてここにいる?どうして自分はひとり?欠片も分からないままひたすらに進む。砂埃や汗が滲んだ髪の毛が時折顔に着くのを左右首を振って振りほどく。その時ぐらりと身体がよろけて木の幹に尻餅をついた。立ち上がる気力もない。もういいや、今日はもう疲れたから明るくなったらまた進もう。そのまま幹に寄り掛かり、見上げれば木々の間から月が見える。それは真っ白でとても綺麗だった。

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