「俺の中にある表現技法だけで上手く伝えられるか…あの時に一瞬で恋…いやこれは売れないドラマみたいな台詞だから却下!たくさん笑ってくれるレイは可愛い!話してても可愛い!一緒に歩いてても可愛い、可愛い!いや可愛いだけじゃなくて、その、一生懸命さ?っていうのか。違うなとにかく俺は、俺は!レイのことが好きだ!!」
「声デカ過ぎて隣の家にまで聞こえてんだろうけどさ、そういうことは全部あいつに言えよ」

なんで俺に言うんだよ。相手違ぇよ。
ファンシー過ぎる部屋に男2人。
人は慣れる生き物。女子全開のパステルカラーで統一されたこの部屋には完全に慣れたが触発されてという意味じゃない。俺の部屋は現代男子高校生あるあるな汚い部屋である。掃除したくなるとエレンに前言われたけどファンシールームに模様替えされそうだから丁重にお断りしておいた。

「で?あれからレイとは?」
「帰りがけ飯食ったりとか」
「へー」
「それで明日休みだろ?だから行くことになってる」
「何処に?」
「レイの家」
「生きて帰ってこれるといいな」
「?」
「真面目に知らねぇの?」
「何が!あ、次ココア飲むか?」

可愛いマグカップを指差すエレン。
炭酸の1つや2つや3つ置いとけ。
1杯目手作りキャラメルマキアート。2杯目手作り抹茶ラテ。3杯目手作りココアとか胃がファンシーになるわボケ。

「ローゼンハイムっていったら、」
「武道一家で有名とかなんとかだろ?」
「は?知ってんじゃねぇか」
「知ってっけどレイと何の関係が?」
「大アリだバカ!レイはそのローゼンハイム家の長女だバカ!バックがとんでもねぇのと付き合ってんだよ!」
「嘘だろ!!?」
「逆に今まで少しも気付かなかったお前に乾杯しよう乾杯!!」

女子力のなさとか脳筋とか垣間見えなかったのかよ。どう見たって分かるだろ。俗に言うフィルターかかってて分からなかったやつかもしれない。驚いてるエレンはクマのぬいぐるみを抱き締めている。レイだったら絶対やらない。

「親父さんは剣道、お兄さん達は柔道と合気道で妹は弓道。全員凄腕、ゴルゴ並み」
「待て!待て…言ってたわ!」
「そうまでして繋がらないんだから本当にめでたい頭してるぜ!」
「でも大丈夫だろ!」

ぬいぐるみ抱き締めたまま立ち上がらなくてもいいと思う。それより何の根拠で大丈夫なのか。

「好きって気持ちが大事だ!」
「え、まぁな」
「家族がゴルゴであれ俺はレイと別れる気はない!」
「あくまで強さをゴルゴに例えただけでゴルゴじゃねぇから」
「大丈夫!」
「アッ…お前そういうヤツだった。でしたらどうぞ派手に散ってきてくれ」

同じ国の人間なのに全く言葉が伝わってる気がしない。それよりも腹の中が甘ったるくて口からキラキラしそうだった。


*


「そうだ」

一家団欒、夕食時の広い和室。
有り得ないくらいに盛られた白米を物ともせず平らげてるレイが思い出した様に話し出す。

「どうした?」
「明日彼氏を連れてきてもいいかな?」

和やかだったこの場が一瞬にして変わる。

「あぁ」
「!」
「うんうん!連れといで!」
「どういう事だ」
「構わないだろリヴァイ。そうかレイに彼氏が、そう…何だって??

5者5様の返答ながらも極めて過剰な反応を示したのは父親エルヴィン、兄リヴァイ、妹ミカサだった。持っている箸をそのまま砕きそう+この世の終わりの顔である。

「…お姉ちゃん」
「ん?」
「どんな人」
「エレンっていってね、すごく可愛いの!」
「男なのに…かわいい?」
「うん!どこか守ってあげたくなっちゃう感じがするっていうのかな」
「そんな軟弱者がレイの彼氏だと…!?」
「いやぁ〜孫の彼氏を見れるなんて」

ハンジは騒ぎ立てる3人を余所に楽しげに味噌汁をすする。が、バケモノ級に若い彼の息子エルヴィンは勿論理解が出来ない。

「父さん!!レイの一大事だぞ!?何を呑気に!」
「へ?呑気?どこが?」
「ただ彼氏を連れてくるだけだろう」
「ミケ!!」
「まったく大袈裟過なんだから」
「レイ!!」
「おいミケ、テメェ妹が可愛くねぇのか。一大事だぞ?」
「妹は可愛いがお前は落ち着け」

「…いかがわしいこと」

突然の末っ子の発言に今までの騒がしい論争がピタリと止む。その目は非常に怖い。小学生とは思えないオーラを纏っていた。

「ミカサ…?」
「そいつお姉ちゃんに…いかがわしいことしたに違いない」
「キェェェイ!!」

何処からか取り出した刀でテーブルを一刀両断したエルヴィン。みんなが割られる前に茶碗をサッと持ち上げていたので何も溢れることなく被害はテーブルだけ。見事に真っ二つ。新しいの買わなくちゃいけない。

「何するの!?まだ食べてるんだからやめてよ!」
「いかがわしい事されたのか!?」
「されてないって!」
「されたのか?」
「だからされてない!」

またヒートアップし始める会話。
つまるところ、ローゼンハイム家のみんなはレイのことが大好きなのであった。

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