「私はずっと…」

女になりたかったんだ!!

「本当に、本当にすまない!」

両親は俺が5歳の時に離婚した。
家事がやたら得意だと思っていたの。可愛いモノが大好きで、やたら乙女思考だとは思っていたの。と思ったら、やっぱりそうだった。衝撃的なカミングアウトをした父親と別れたのを母親は後悔していないようで。むしろスッキリした様に見えた。

「あなたは絶対にダメよ?」

あの男と同じになっちゃダメ。
13年前の出来事だった。


「よぉエレン」

学生達の声が行き交う通学路で1人興奮しがちにスマホをいじる友人の肩を叩く。ハッ!と気付きなぁジャン見ろよコレ行きてぇ!!とデカい声が炸裂した。

「新しく出来たマカロンの店!雑貨も売ってんだけどすげー可愛いよな!?」

スマホの画面はファンシーでいっぱい。まるでこちらとは縁がない世界。あとな!と話しは聞いてもいないのに続く。

「昨日行ったカフェはショコラテが美味くて!」
「おう」
「あ!この前お前と買いに行った毛糸で作ったんだよホラ!ぬいぐるみ!」
「すげー可愛い」
「だろ!?枕カバー!」
「は?枕カバー?」
「柄がもう可愛くてつい買っちまった!」
「へー」

キャッキャとはしゃぎながら聞いてもいないのに(2回目)報告してくるエレンにジャンは悟った目でうんうんと頷く。

ブルーよりピンク。コーヒーよりキャラメルマキアート。料理に裁縫、家事全般何でもござれ。少女漫画や可愛いものが大好き。その反面暗い所、怪談に虫が大嫌い。
そう、コイツは乙女的思考、趣味、特技を持つ乙男だった。
最初はあまりの女子力ぶりよりも声のデカさに引いたけど今は慣れた。たまに俺の弁当も作ってきてくれる。父親がそのせいで離婚したらしいが寸分の狂いもなく遺伝してるじゃねぇか。でも女になりたいわけではないと友人は言う。はい、そうですか。

「付き合ったら相手大変だな」
「何でだ?」
「スキル的に並大抵の女子じゃ太刀打ち出来ないってこと」
「そうか?」
「バカでも分かる。その前に好きなヤツとかいねーの?」
「今はいないけど人並に付き合いたいとは思ってる!」
「うん分かった声デカい」
「ちなみに好きなタイプを言「アレ?別に聞いてな「そこの君!ねぇ君!」

突然テンション高い声。
なんだなんだ?
その方では如何にもチャラい男2人が1人の女子生徒に話し掛けていた。しかも他校ウォール・シーナの制服。朝から此処ウォール・ローゼに長距離出勤でナンパに勤しんでいるとは。だが周りの生徒は女生徒を助ける事なく横を通り過ぎていく。

「それにしても誰がナンパされて、」

あ、そりゃ通り過ぎるわ。

「ちょーっと遊んで欲しいだけ!こんな可愛い子逃したら勿体無いし!」
「しつこいです!どいてください」

「行くぞ」
「ちょ、ジャン!困ってんだろ!」
「心配いらねぇよ」
「どこが!」

エレンの喚き声を無視して門をくぐる。
珍しい、アイツを知らないなんて。
命知らずとしか思えない。

「だから少「いい加減にしてください」

瞬間グエッ!という声だけが聞こえ、振り向けば2人が見事にノビていた。頭の上でヒヨコが見事にピヨピヨ踊っていて生徒達は男達に哀れみの視線を送りながら校舎へと入っていく。俺に気付くと満面の笑みで手を振ってきた。

「ほら」
「…」
「レイ」
「あ、ジャンおはよう!」
「おー、また派手にやったな」
「気絶させただけ」
「とりあえずお前も一緒行こうぜ。おいエレン、エレン?」
「…タイプ…きた…」
「へ?」

一部始終をポカンと見ていたと思ったら急に何を言い出すお前。 タイプ?何が…タイプってオイオイまさかそういう意味?
するとエレンはズイっと前に出てレイに手を差し出した。もちろん顔は興奮一色に染まっている。そしてそれに全く動揺していないレイ。

「俺は3−Cのエレン・イェーガー!!」
「3−Fのレイ・ローゼンハイムです、よろしくね」
「付き合ってください!!!」
「だから急に何言い出すのお前ぇぇぇ」

クラスと名前だけで告白に行くバカ初めて見た!ドラマとか漫画だけの現象かと思ってたら三次元でやってのけたバカいた!いやいや、いくらタイプだからって良くも知らないヤツの告白をコイツが承認するわけがだね。

「はい!是非お願いします!」
「おぉぉぉぉい」

この展開に違和感感じろお前ら。
会って数秒でお付き合いとかおかしいだろ。
何もう仲良さげに話してんだやめろエレン『俺付き合えた!!』的な視線いらねぇから!目の前で見てたから知ってるから安心しろ声でけぇから分かったよおめでとうってば!宇宙人だよお前ら!

「あ、あのさ…甘いモノとか食う?」
「大好き!」
「帰りいい店あるから行かね?」
「うん!楽しみにしてる」
「ジャンもどうだ!?」

そこで俺も誘うエレンお前

「会話の流れ!デートは3人でするもんじゃねぇだろ!」
「みんなで行った方が楽しいよ?」
「うわぁ言い聞かせても無駄か、なら上等だ同行してやる」
「やった!」

ズレてるのはもしかしてこっちなのか?
それよりもこの先エレンは凄まじい困難に立ち向かわなきゃならない、コレ確定。
レイの女子力なさをその目で存分に確かめるといい。そしてコイツの実家。だってローゼンハイム家っていったらもう超がつくほど有名ですから。頑張ってくれ。

様々な気持ちを込めて俺は心の中で合掌するのだった。

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