「本当に」

壁外調査前に行きたい所はないかと聞かれたので、リヴァイが気に入っている紅茶店に行きたいと俺は答えた。客が多くいながらも落ち着いた気持ちにさせてくれる不思議な店だった。誰もが紅茶を飲んでいる。当たり前か。すんすん。

紅茶は美味い。
一緒に出された焼き菓子も美味い。
いい店だと思うが気に喰わない。
カップに口を付ける度ふわりと香っていた香りがまるで感じられなかった。
20代前半に見える女は笑っている。
俺は楽しくもなんともない。

「可愛らしいお嬢さんですね」
「お嬢…まぁそうだな。これ新しいヤツか?」
「はい。新作のブレンドですよ、良かったら持って帰ってください」
「助かる」
「…」
「うんうん、話しに聞いた通り」
「どういう意味だ」
「前いらしたハンジさん達が教えてくれたんですよ」
「…」
「そうか」
「えぇ、ではごゆっくり」

店主がこの場を去ってからも向かいに座るミケの顔はむくれていた。ちなみにコイツをそうさせるような事をした記憶は今の所ない。

「どうした」
「別に」
「ふてくされてんぞ」
「ああいう女が好きなんだな」
「あ?」

仲良さそうに。表情は変わらないもののペラペラと饒舌になっているのをしっかりと確認した。俺の前でもあんな風には話さないと、思う。カップの中の紅茶を怒り任せに飲み干すとまだ熱かったので口の中がじんわりとした痛みに刺される様だった。すん!と鼻を鳴らしてしまう。痛い。

「やっぱり若い女か」
「おい」
「若さに勝てるわけない」
「聞けデカヒゲ」
「誰がデカヒゲだリヴァイのバ、っ!?」

呼んでもブツブツと漏らす独り言が止まらないので身を乗り出して頬を摘んだ。軽く横に引っ張る。

「元のお前はデカヒゲだろうが」
「なにするんら」
「よく伸びる」
「いひゃい」
「いつ若い女が好きって言った」
「そう見えひゃ」

パッと手を離してもむくれた顔は変わらない。

「反則だ」
「嫉妬したんだろ」
「してない」
「意外と可愛いことするんだな」
「な…っ!」

最初から露骨に顔出てたんだ、分からないはずねぇだろ。まさかこんな見え透いた態度のくせに隠してたつもりかと聞いたら知らないしてないの一点張り。そういう所が愛おしいと思える。

だが生憎、俺からは若い女ではなく老婆に見える。『今は』と言った方がいいか。案の定「意味が分からない」と返ってきたのでなるべく理解出来る様に説明してみる。なに?子供にも年頃の女にも、はたまた熟年にも見えるし果ては老婆にも見える?

「そんなわけがあるか」
「そんなわけがあるから見てみろ」
「だからそんなわけ…なん、だと…!?」

百聞は一見にしかず。

「…おい…人間じゃないのか?」
「淹れる紅茶が美味いからそれ以外興味ねぇよ」
「…すまない」
「?」
「1人で先走った」
「言ったよな」

俺はお前が好きだと。

「…言った」
「だから他の女にも興味ねぇ」
「そ…うか」
「顔赤いぞ」
「こ、こんな所でお前が平然と言うから」
「それの何が悪い」

出来るなら壁外調査であっても側にいて助けてやりたいがそれは無理な話。
俺は人類最強だなんだ言われてるが周りが勝手に騒いでいるだけで死ぬ時は一瞬だ。それに人並みの感情だって持ってる。コイツのことを心配しないわけがない。壁外調査に怪我なんて生易しいモノはない。生きて帰れるか死んで帰れないかしかないのだから。

「リヴァイ」

テーブルに投げ出していた俺の手をミケが取った。

「心配してるのか」
「当然だ」
「女になっても強い」
「それとこれとは別だろ」
「また来よう、此処に2人で」
「お前から誘われるとはな」
「たまにはいいだろう」

そして気付いた時には唇が額に触れてた。
真っ暗になった視界が少しずつ明るくなっていく。

「チッ……テメェ」
「その割に嬉しそうな顔してる」
「夜泣いても加減してやらねぇからな」
「負けず嫌い」
「行くぞ」


「ありがとうございました」

カランと揺れるドアの鈴。
カウンターから先程まで2人が座っていた席を見つつ、何処からともなくタロットを出すと手早く切りカードを1枚引いた。

「おやおや…これはまた」

手の中にある1枚のタロットカード。
これからがもっと楽しみですね。
さて、彼等に何が起こるでしょう?

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