「ちょうどあの子達が来てた時間?」
「うん」
「…死んじゃったね」
「そうだね、エレンはどう?」

夕刻のアンダーワールド。
聞こえていた筈の会話も笑い声も、何一つ聞こえてくるものはない。ケーキ食べてジュースや紅茶飲んで他愛もない話をしていたあの子達。レイはカウンター越しからエルヴィンとハンジにコーヒーを差し出す。飲み物を出す時に必ずナナバも『零すなよ』っていう小言は聞けないから自分で言う事にした。

「だいぶ参ってるって」
「ナイル先生は?」
「泣いていた。あんなナイルを見るのは初めてだったよ」
「そう。ミケは仕事?」
「緊急の要請があったみたい」

調査兵団がイーターを殺してもイーターが調査兵団を殺してもほら、時間は誰へ瞑想することなく無情に進む。相変わらずレイの表情が変わる事はない。ただカップの中で揺らぐコーヒーを見つめている。

「…でも結果、」
「結果?」
「4人はこれで良かったんじゃないかな」

違う選択も選べた筈なんだ。
それでもこの結果になる様な選択を自らでしたんだから、そこに第3者が入れる世界なんてないし入れるわけがない。それによって誰かが身を引き裂かれる様な悲しみを味わう事になっても。
それしかなかったんだよ。それが最善だと思ったあの子達は悪くない。

「うーん…最終的に何言ってんのか分からなくなっちゃった」
「先生出番!」
「私の最新脳味噌ランキングが聞きたいと?」
「ちげーよ!」
「冗談だ。つまりレイの言いたい事を簡潔にまとめると『人生とは選択』」
「そんな感じ、ありがとうエルヴィン」

いつまでも悲しむか悲しまないか、それすらも選択。なら後者を選ぶ。だから俺が死んだとしても悲しまずに残りのメンバーで楽しく殺っていってもらいたい。死ぬといっても雑魚には殺られたりしないけど。

だって死んだら悲しんでくれてる人の姿なんて見る事出来ないんだから。
嘆いたって生き返らないんだから。
泣いても叫んでも過ぎた事は元には戻らない。そうして俺は何事も無かったかのようにまた人を無慈悲に殺す。あ、心臓食べたくなってきた。

「となるとハンジが最年少か」
「変態最年少」
「みんなそうでしょ!」
「え?やだな2人には適わ「そうだ!この前の研究のすんげぇプロセス聞いて欲しいんだよね、聞いちゃう!?聞きたいよね!?」
「じゃあ聞いた後に狩り行こう」
「いいよ!」

レイは時計をチラッと見る。興奮しまくりのハンジが話し終わるのは…かなり先になりそうだ。元々話しを聞くのは嫌いではないし途中エルヴィンの横槍が入るのが楽しいからいいんだけどね。

話しが終わったのはそれから5時間も経ってのことだった。


*


「あれ?また面変えた?」
「レイがくれてね」
「これ今話題のキャラじゃん」
「研究講義に加えて脳味噌講義まで始まるとは。横槍所じゃなかった」

ビルの屋上。面に外套。
今日は風が強いのでバサバサと揺れた。横では腹が減ったからと殺した死体をハンジがモシャモシャと食べている。心臓を貰ったけど味が濃くてなかなかに美味しかった。

「どうしたんだ?」

ふと気付いたエルヴィンが指差したのはレイの外套。横一直線に裂けているのが一目で分かった。本当だ、しかし支障は何一つないと返す。

「珍しい」
「なんだろ…予兆?」
「さぁ?かもしれない」

それだけを言い残し3匹は暗闇の繁華街へと溶けていく。新たな死体が作り出されるまでほんの数秒後。

もはや人間であったかどうかも分からない肉片を狐の面を付けたイーターが首を傾げて眺める。表情は見えない。そういえば昔誰かが言ってた。

誰にでも優しい人は、本当はすごく冷たい人で大切な人を傷付けてると。

『だとしたら』
「や、めて…っ殺さないで…!!」
『俺は当て嵌るのかな』
「やめて…!」
『どう思う?』

命乞いをする人間の眉間に銃を撃ち込んだレイ。血飛沫を真正面から浴びる。また意味の分からないことをツラツラ考えてしまって哲学者にでもなったんだろうか。

『まっ、どうでもいいか』

俺はイーター、心臓が好き。
それだけが事実。
あと元人間だってことも。
それ以外は知らない。
だって、人生は選択なんだから。

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