小高い丘に立つ石碑に置かれた花束。
あたたかな太陽が天から降り注ぎ草花が風に柔らかく揺れる。靡く髪を手で押さえた、腰まである長い黒髪に真っ白なワンピースを着た女性。彼女の瞳は陽の光に反射して様々な色を浮かび上がらせていた。

「お元気ですか?」

誰もいない空間に話し掛ける。
あの日から200年が経ちました。ほら、10年に1つ歳を取る身体だから。たくさんの方に支えられて幼かった私も27歳。あと30年もしたらみんなと同い年くらいになります。

長い長い死闘の末に巨人の脅威を消し去る事が出来た人類は、すべての壁を取り壊し新たな歴史を紡いでいる最中です。昔の様に怯えることなく、誰もが笑顔で暮らしています。文明が著しく発達しただけではなく、ウォール・シーナやウォール・ローゼ以外の国も出来たんですよ。

「何処へでも行けるの」

だから私は生まれ故郷であるローゼンハイムへ行ってみようと思います。何が残ってて何を感じるかは分からないけど行動するのは無駄ではないから。

「今の私を見たら笑うのかな」

エレンもミカサも泣きそう。ああ見えて2人はすごく涙脆いところがあるの。でも優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんに変わりはない。
ハンジとナナバはうっそマジで!?あんなちっちゃかったのに!とか?その前にケーキ食べに行こうって言ってあげなくちゃ。
モブリットは変わらず接してくれそう。いつ会っても振り回されて苦労してるに違いないから労いの言葉をたくさん用意しておこう。
リヴァイは俺よりでかくなりやがってクソ野郎、絶対これだね。あとは敬語が出来るようになったことに驚くかもしれない。
ミケはまた肩車してくれるかな?重くてダメなら膝の上に座るから一緒に飴食べようよ。あの時食べた飴、まだ売ってるから。

「あなたは…」

何て言ってくれる?
エルヴィン、私こんなに大きくなったの。
マントだってもう引き摺らない。たくさん文字も読めるし書けるようにもなったんだよ。

「…」

人々が幸せに自由に暮らせる世界の礎を築いたあなた達は今、英雄として多くの人に語り継がれています。
しかし時が経てば真実は伝説へと姿を変えて、まるで最初からこの平和が存在していたかの様に忘れ去られるでしょう。
でも私だけは一生忘れない。
あなた達は死なない。
私の中であなた達は永遠に生き続ける。

「エルヴィン」

彼女の瞳からポロポロと涙がこぼれる。
死ぬのはまだまだ先になりそうだから。
何百年して、いつか会えたら。
すぐに私だって気付いてくれますか?
大きくなったなって、たくさんの事を出来るようになったと褒めてくれますか?
あの時の様に頭を撫でて抱き締めて、今までよく頑張ったと言ってくれますか?

死ぬまで結婚はしない。
今結婚しちゃったら見れないもんね。だから天国に行ったら真っ先にあなたに花嫁姿を見せるの。
話したい事がたくさんある。
そうだねって、いつもの様に優しく頷いて聞いて欲しい。
私はこれまであなたから貰った愛情を支えに生きてきた。それはこれからも続く。

「レイ」

その時風が一層強く吹いた。
振り向けば花と緑だけ。
でも確かに今いた。
世界で1番大好きな人がそこに。

その後の彼女の消息を知る者は誰1人いない。
そうだ。聞き忘れてたことがあった。
全てのものには色がある。
この広い空に向かって問い掛ければきっとあなたに聞こえるはず。

「ねぇエルヴィン」

わたしは、何色でしたか?

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