深紅のワインが注がれたグラス。
目の前に座ったミケがそっと差し出す。
芳醇な香りが漂った。

「飲んでみて、美味しいから」
「ありがとう」
「早速だけどローシアン侯爵とはこのまま関係を続けた方がいい」

調査兵団にとって貴族は切っても切り離せない存在。彼等には権力も金もある。金を持て余しているからか此処に来る者がいて、となれば自然と彼女と肉体関係を持つ者もいるわけで。気分が舞い上がっていると人の口はいつも以上に滑るらしい。

「ウォーターフォード侯爵とも仲が良いでしょ?」
「お陰様で」
「今度そこの三男とグラハム家の娘が結婚するらしいの」
「結婚?それは初耳だ」
「式にエルヴィンを呼びたいって」

参列すれば更に援助が増すかもね。
さすが情報を掴むのが早い。喉に甘く染み込んでいくワインを味わうとミケが小さく笑った。

「当主が私の客だから」
「金があると見境がないな」
「まさにそれ。あとタウンシェンド家とは手を切るべき」
「あそこは次男だけが問題じゃなかったか?」
「それがとうとうやらかして今大変な事になってる。飛び火する可能性高いかも。あとは…」

事細かに報告される。調査兵団の人間であるが故に貴族の情報を手に入れるのは立場上難しい。そのパイプ役として暗躍してくれているのがミケだった。

その後は残された時間の中で他愛も無い話をする。すぐに次の客を相手出来る様に着飾っている姿、特に人気のある彼女が娼婦という事を忘れて過ごせる時間はないに等しいらしい。しかしハンジに恩を返す為だからいいのだと言う。
脱いで置いてあったジャケットを綺麗に畳み手渡した。意外と雑に脱ぐからと言って2人で笑って。お馴染みの流れに気分が落ち着く。

「身体には十分気を付けてくれ」
「いつもそれ言う」
「ハンジと同じで私も心配だからだよ」
「大丈夫、エルヴィンも気を付けて」
「あぁ」
「じゃあ、また」
「グラスは私が返しておくよ。では」


*


眩暈を覚える香水の香り。
貴族特有とでもいえばいいか。
いい香りなんかじゃない。
部屋に入ってきた瞬間に噛み付く様なキスをされる。息継ぎをする間もなく続けながら男は彼女のドレスに手を掛ける。肩紐をずらし手を下へと這わせれば白く大きい胸が顕になった。上目遣いに見れば獣のように光る彼の目。

「相変わらずいい身体」
「…立ったまま…?」
「とりあえず挿れていい?」
「っまだ…濡れてない…」
「でもお前のせいでもうこんなだから」
「っ!やぁっ…!」

ベッドに押し倒し四つん這いの姿勢を取らせると、男は後ろから容赦なく自身を捩じ込んでいく。濡れていない秘部の奥へ奥へ押し込まれる度に皮膚を剥がされていく様な…気持ち良くも何ともない。

「ぁ、んっ…こんな…はいらない…っ」
「じゃあこうしたら力抜けて入るだろ?」

両脇から入った手が胸を搾る様に揉みしだく。柔らかい胸は手の動きに合わせて形を変え、指先が快感を与える様に乳首を撫でればミケの身体がピクッと反応した。

「あっ、そこ…っだめ…ぁ…」
「おっぱい苛められるの好きだもんな、っほら…力抜けてきた」
「おく…っ当たってる…おっきい…っ」
「っ入った入った。ミケこっち向いて、キスしてあげる」
「んっ…!ふぁ、あっ…んん…っ!」
「っ…うわ…すっげーエロい顔、俺のそんなにいいんだ?」
「いい…っもっと、ちょうだい…?」

おねだりすれば簡単に律動が早くなる。
胸をまさぐる手も早くなる。
全然欲しくなんかないけれど。
全然良くもない。
嫌い、痛い、嫌い。
でも大袈裟に反応してればこの男は満足するから。あとはこの先も、タイミング良く喘いでればすぐ終わる。

「あー気持ち…っもうイきそう」
「おなかじゃなくて…っなかね…?」
「っそうな、いっぱい出してやっから」

大丈夫、怖くない。
怖くなんかない、すぐ終わる。

「ぁ…あぁっ…!」

生あたたかい精が自分の中に入って来る。
それは愛情でも何でもない、相手が勝手に膨らませた大きな大きな性欲。私は人形。

「はぁ…ぁー…ミケの中最高…」
「っまだ…びくびくする…」
「可愛い。というわけで前座は終わり」
「え…?ちょっと…待って…っ」

今度はミケの身体を仰向けにすると両手を頭の上で押さえ付けた。
好きだよ。
お生憎様、お前なんかに言われたくない。
あと少しの我慢。大丈夫、怖くない。

「さーてと、残りの時間犯しまくるかな」


*


何かを着るのすら面倒になった彼女は裸のまま横になっていた。
秘部から溢れた精液が細い足を伝う。
瞬きを1、2回。
鼻をすんと動かせば大嫌いで反吐が出るアイツの香りと、焼き付くような精液のにおいが充満していて顔を顰めた。全身の痛み。上半身を起こせば近くにあった等身大の鏡が犯され尽くした自分を映し出す。肌に残る所々赤い跡。乱れた髪の毛。

「…」

シーツも一度全て変えなきゃいけない。
しっとりと汗と精液で濡れる身体を再びベッドに横たわらせた。
セックスは痛いもの。
セックスは我慢するもの。
恋って楽しい?誰かを愛するのは楽しい?優しいセックスってなに?そんなものあるの?自己満足で終わるのがセックスなんじゃないの?触れ合わなくても伝わる恋ってなに?

「…兵士長だったら…」

知ってたりするんだろうか。
それらのすべてを。

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