「やっぱ此処だった」

朽ち果てたクラブの跡地。
窓は割れ隙間からは外の街灯が入って来る。錆びた椅子やテーブルがいくつも無造作に置いてあり、転がっている酒瓶にはまだ酒が入っているがラベルが磨り減って何も読めなかった。ナナバが一歩踏み出す度にガラスの破片を踏む音がする。
壁に寄りかかって座るサシャに何も変わってないと一言。

「懐かし」
「…」
「お前達と会った場所だよな」

此処はサシャとナナバ、アニが初めて出会った人目を避けて捕食しなければいけないイーターにとっては絶好の場所。元々はサシャとアニ、2人で行動していたがとある日に3人になる。

『アニも遠慮なくどうぞ!』
『余ったヤツ食べるから先いいよ』
『みっけた、仲間入れてくんない?』
『さっきから気配はしてたけど…誰?その制服学園のだよね』
『同じイーターだけど。名前はナナバ』
『ナナバ…?あ!知ってます学園で1番の問題児!』
『はぁ!?初見で言ってくれるねお前』
『2人とも声大きいから静かにしてくれる?』

「アニがバカ真面目な顔して怒ってさ」
「…」
「そんで3人揃って笑ったよな」

何処で互いに警戒心解けたんだがいつの間にか一緒に行動するようになって、その後クリスタとも仲良くなったっけ。学校終わってからはよく4人でレイの店行って。

「そういやいつもお前は何かしら食ってたね」
「…先輩」
「わざわざ言わなくていい」
「ごめんなさい」
「どうせこっから動く気ないんだろ?」

さて兵団はいつ此処に来るのか…それとも見つけられない?無駄に最先端のネットワークだけはあっからなぁ。血だらけに走ってたお前もどっかで見られてるだろうし、と見せかけて1番にあの変態教師が来たら顔面殴ってやろっと。

「行ってください」
「なんで?」
「まだバレてないから」
「はぁ!?指図すんなバカ」

隣に座ったのを驚きの眼差しで見つめる。
自分は親友を殺しても平気でいられる程強くなかった事に今になって気付いて、気付いた時にはもう全てのやる気とか生きる気がなくなった。それなのに先輩はどうだろう。これじゃ無駄死にじゃないか。当の本人は大して気にもせず携帯機器をいじっている。

「先輩!」
「無駄死にって思ってるだろ?」
「だってそうじゃないですか…!」
「別に?レイ達には申し訳ないって思うけど」
「だったら、」
「後輩達死なせといて自分だけノコノコ生き続けるのは嫌なんだよなぁ」

だから一緒に死んでやる。
そして立ち上がる。
だがナナバはそのまま動かない。
窓の向こうから額に当てられている赤いレーザーサイト。それは座ったままのサシャにも当てられていた。

「あれ?もう来た!」
「早いですね」
「雑魚は雑魚らしくどうせアンチマテリアルとか使ってんだろ、遠距離でちまちま根性無しかよ」
「先輩」
「んー?」
「ごめんなさい」
「あはは、それな!」

本当に手の掛かるヤツ。
腕組んで自分が納得いくまで相手に悪態吐き散らすナナバ。それでも周りから慕われていたのは強く優しかったから。

「ま!今日は特別に許してやる」

また会えるからさ、すぐに。
だから何も怖くない。
4人でまた何して何処行こうか。

レイ、美味しい飯ありがとう。
ハンジ、変態教師をよろしく。
エルヴィン、面やっぱり似合ってた。
ミケ、なんか色々ありがとう。
サシャ、アニ、クリスタ、ありがとう。

確信持てるまでは撃たないってか。
だったらこっちからしてやるよ。
瞳が徐々に赤くなる。イーターとしての人生も悪くはなかった。そうじゃなかったらレイ達に会えなかったから。

最後にちゃんと呼んであげよっと。
ナイル先生、課題まだやってなかった。
厄介な生徒1人減ったくらいに思ってよ、でも今までお世話になりました。

「ずっと私の先輩でいてください」
「なんだそれ」
「えへへ…最後なんで」

苦しい時に側にいてくれた。
楽しい時一緒に笑ってくれた。
間違えた時本気で怒ってくれた。
誰にも媚びないあなたは優しく強く私の憧れだった。

「お前、いい後輩だった」


後に現場に合流した特等捜査官のミケが見たのは、額から赤黒い血を流した2人の少女の死体。
寄り添うようにして死んでいる彼女達はただ、

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