「コレと!コレに、あとこっちにもサインを!!」
「お任せあれッ!」
「レイちゃん!次のライブも必ず行くから!!」
「ありがとうございます!その日は絶対に遅刻しないようにね!」
「きゃー!テレビで見るより可愛い!写真お願いします!」
「えへへ、照れるなぁ…はい!じゃあスペシャルに笑っていっくよー!」


定期的に行われる抽選で選ばれた100人のファン限定レイ・ローゼンハイムの握手会。大人気故に半端なく倍率が高い。その中で選ばれた者は叫んだり泣いたり壊れた様に笑ったりと様々な反応をするんだとか。

最初は想像を遥かに超えたリアクションをかますファンにユミルもミカサも思わずドン引きしたものだが、家族同然のレイがここまで活躍出来るのは第一にファンのおかげ。といってもドン引きする時は顔には出さず遠慮なくドン引きしている。
ホールに長蛇の列。
その列に見慣れた姿が。
その内の1人は緊張からか猛烈に声がデカい。

「だ、団長…!俺…っどうしたらいいんですか…!?」
「心配はいらない、君が思ってる事をレイちゃんにありのまま伝えるんだ」
「ありの、まま…ですね!あぁやべ、まさか当たるとかやべぇ…!」

エルヴィン・スミス 当選
エレン・イェーガー 当選

という事で今日は会社の上司と部下ではなくファンとしてこの場に来ていた。駆け出しの頃から応援してるとかすげぇ!

「団長!お会い出来るなんて…!」
「私も嬉しいよ。共に心臓を捧げよう」

レイ・ローゼンハイムのファンクラブ『調査兵団』には5つの階級があり上から団長・兵士長・分隊長・班長・新兵となっている。入会すると貰える会員証にはポイント機能が付いておりイベントやライブに行く度に、グッズを買う度にポイントが加算されその合計数で階級が決まる仕組みだ。その中でも圧倒的なポイント数を占めているのがエルヴィン達調査兵団四天王でありファンの中では憧れの存在となっている。既に並んでいるファンから握手を求められている辺り、まだ新兵の階級にいるエレンはすげぇ!と思うしかなかった。

「…うわ…」

列は進みやがて来る。

「うわ、ちょ…」

自分達の順番が。
次の方どうぞ、の声に全身が一気に熱を持つ。今にも嬉し泣きしそうだ。

「今日は来てくれてありがとう!顔赤いよ…?大丈夫?」

だって本物のレイちゃんが目の前にいるんだから。ニッコリと出した手をギュッと両手で握ってくれて俺はもうヤバかった。

「だ、だだ大丈夫、です!」
「ふふっ、なら良かった。お名前は?」
「エッ?アッ!えっと、エレ…エレン!!」
「よろしくねエレン!一緒に写真撮ろっ」
「撮ります!!!」

前言撤回。
今までレイちゃんに興味が無いとか言ってた俺、駆逐されてしまえ。

「うん、よく撮れてる!」
「レイちゃん!」
「ん?」
「決め、決めゼリフを!お願いします!!」
「オッケー!では…レイちゃんに!心臓を捧げよッ」
「!」
「エレンへの特別バージョンだよ!これからもよろしくね!」

俺だけにあの可愛いポーズで…どうりで涙で前が見えないわけだ。握手会ブースを団長より一足先に出てからも感動から来る涙が止まることはなかった。

「団長!当選おめでとうございます!」
「やぁ世界の救世主!天使!素晴らしい!!早速1枚頼む!」
「了解です!ではでは笑ってー?」
「「はい、エルヴィン」」

スマホを覗き込む。
これがお決まりの流れであった。
熱い握手もお約束。

「今回は新作のグッズもたくさんブースに出てるのでお土産にどうぞ!」
「ありがとう、家で待つ同志の泣いて喜ぶ顔が容易く想像出来るよ」
「明日はSステ生放送スペシャルなので是非見てくださいね!」
「もちろん!私の全細胞がレイちゃんの輝く姿を1秒足りとも逃すなと命令している、任せてくれ!」


「ラスト2名入りまーす!どうぞ」

スタッフに促され入って来た少女とその母親。
自分を見つめるキラキラとした眼差しが可愛くて、それでいて嬉しくなる。だから私も精一杯の気持ちを込めて。

「今日は来てくれてありがとう!」
「わぁ…レイちゃんだ…!」
「こっちおいでおいで!」
「うん!」
「この子、毎日レイちゃんレイちゃんはしゃいで」

苦笑いしながらも母親の顔は明るい。
サインも握手も写真も全部、今この場で出来る事を全部し終えると女の子はレイを真っ直ぐ見つめた。

「あのね!わたし大きくなったらアイドルになってレイちゃんと同じステージに立つの!」

わたし、アイドルになれるかな?
なれるよ。
レイなら絶対なれる。
ほんと?
お姉ちゃんが保証する!
だから諦めないでね?
ずっと応援してるから。
うん!

「…」
「わたし…アイドルになれるかな?」
「…なれる、なれるよ。絶対になれる」
「ほんと?」
「私が保証するんだもん、大丈夫!」
「やったぁ!」
「だから諦めないでね、ずっと応援してるから」

わたしの夢はみんなの夢。
ここまで来たんだもの、もっとレイ・ローゼンハイムが愛される存在でいられるように。
そうでしょう?
だから私、頑張るからね。
だからずっと見守っててね。

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