今日はウォール・シーナに出掛けた。
似合うよって買ってくれた青いワンピース。そしたら『今着てもらってもいいかい?』って言われたから着ていたワンピースを袋に入れてもらって新しいのを着た。いつもはそんな事言わないけどエルヴィンだから特別。

私だけじゃなく店の人にも「とっても可愛い、お似合いね」と言われたレイは少し照れていた。
次は行き付けの古い本屋。更に読み応えのある図鑑と読みたがっていた物語を数冊購入。

「重くないかい?」
「大丈夫だよ」
「今日はいい天気だ」
「うん、センタクビヨリだね」

ウォール・シーナの大通りを手を繋いで歩く。レイはそれぞれの影の大きさに差がある事を指差し不思議だねと笑っている。途中落ちていた綺麗な小石に興味を惹かれ拾おうと手を伸ばし、瞳を無意識のうちに桃色に変えた時にはやめなさいと注意した。

みんなとも何回か来たことがあるお店に入るといつも優しいお姉さんがレイちゃんこんにちは、お父さんとお出掛け?だから私はお出掛け、すっごく楽しいよって応えた。前はダンチョウって呼ばれてたけど、今はたまにお父さん。

「コーヒーと…レイちゃんはケーキとジュースでよろしいですか?」
「あぁ、頼む」
「かしこまりました、少々お待ちくださいね」
「ハンジとナナバがケーキほしいって」
「ちゃっかりだな」

運ばれてきたケーキに目をキラキラ。瞳が赤にも青にも黄にも変わった様に見えたのは気のせいじゃないと思う。使い慣れたフォークで1口、目が合うとそれはもうにっこり。コーヒーを飲みながらその姿を眺めるのが楽しい。

お姉さんが作るケーキはすごく美味しい。これはショートケーキって名前で真っ白いのにふわふわで甘い。前に食べたのはチーズケーキ。でも1人で食べるよりも2人で食べた方がもっと美味しいはず。食べてくれるかな?

「エルヴィン」
「ん?」
「あげる。あーん」
「ありがとう。うん、美味しいね」
「エヅケ?」
「どこで覚えた」
「ハンジとナナバ」

全くもって懲りない2人。幼いレイになんて事を教えてるんだ。始まったエルヴィンのお小言!お小言も言いたくなるが、もう1口くれるという優しさにその気持ちは何処かへと飛んでいった。あのね、あのね、と次から次へと様々な話をしてくれるレイ。時間も忘れて私達は話した。

「たくさん買ってくれてありがとう」
「どういたしまして、今日は楽しかった」
「わたしも」
「風邪を引かない様にしっかり拭かないと」
「うん。お風呂も楽しかったよ」
「それは良かった」

ウォール・シーナから帰ってくるとみんながお帰りって言ってくれた。だからおみやげを渡してただいま。ケーキを見てカエルみたいにジャンプするハンジが面白かった。すっかり夜になったから私はお風呂に入る。髪の毛はいつもペトラが拭いてくれるけど「団長に拭いてもらいな」って言われたのでタオルを持ってエルヴィンの所に行った。お父さんに拭いてもらうのって少しだけ恥ずかしいけど嬉しい。

水分が飛んでも絡まることなくサラサラとした指通りなのはやはり若さ故、だろう。最後に櫛を通せば出来上がり。お礼のやり取りを終えるとあっという間に1日は終わり気付けば就寝の時間。部屋の窓を閉じてベッドへと向かう。今日の疲れは仕事の疲れではないからとても心地が良く、満足感が身体に巡っているのが分かる。部屋の明かりを落としレイと一緒に横になり布団をかけてやるとモゾモゾと動いてこちらに抱き着いてきた。

「寒い?」
「ちがう。へきがいちょうさ」
「うん」
「なんでもない。本当にたのしかった」
「私もだよ」
「ちょっとねむい」
「いつ寝てもいいからね」
「わかった」

楽しいことが思い出しきれないほど。
やりたいことが言い切れないほど。

それでも、時が止まることはない。

「わたし」
「?」
「さみしくないからね?だってエルヴィンは1番強いもん。必ず巨人を倒して帰ってくるんだもん」
「そうだよ、レイと約束したから」
「そしたらまたお出掛けしよう?」
「約束だ」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ」

そう笑って2人は眠りに落ちた。

私はあなたに約束する。
生きて帰ってくると。

わたしは貴方に約束する。
決して寂しくないと。


わたしは不幸にも知つてゐる。時には嘘によるほかは語られぬ真実もあることを。

- ナノ -