お互いに誠意がありませんでした
所有者のいない人形*
胸の奥ではぜた感情
獣の野生を拭い去るように*
華麗なる世界
あなたの悪夢を終わらせたい*
スイートエンゼル

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「何処行く気だ」
「1人でも問題ない」
「俺も行く」
「護衛としてか?」
「そう思ってもらって構わない」

仮にも調査兵団団長ともあろう男が付き人もなしに出掛ける?馬鹿か。まぁ襲われる事など万が一にもないが、その万が一が起きたら大迷惑なのはこちらになる。リヴァイはエルヴィンの護衛として付いていく事になった。

大した会話もなくウォール・シーナの更に入り組んだ道を歩く。辺りは人も居らず物音すらしないと思っていたら、いつの間にか2人は寂れた大きな洋館の前に辿り着いていた。歩き慣れた様子だったから何度か来てるんだろうが…

「知らねぇ場所だな」
「兵団では私しか知らないからね」
「で?此処は、」

聞き途中で扉が錆び付いた音を立てながら開く。高級な装飾品で飾られていると分かる内装だが異様に薄暗い。各自に置かれたテーブルでは男女が酒を飲みながらあれこれ話している。暗さのせいで顔はよく見えない。時折鼻を掠める甘い花のような香り。
何処だか一目で分かった。

「真っ昼間から娼婦通いかよ欲求不満」
「大袈裟に言えばそうなる」
「いらっしゃいエルヴィン!待ってるから部屋行ってあげて。あれ?もしやリヴァイ兵長?」
「お前は」
「ハンジ・ゾエ。あ!悪いけどあなたはこっから先立ち入り禁止」

バーカウンターの様な場所で2人を迎えたこの館を仕切っているらしい人間は、眼鏡をかけ長い髪を高い所で一つに結んでいたが性別も年齢も不詳だった。面倒そうな顔を浮かべたリヴァイはエルヴィンの後を追いかけようとするもハンジに止められる。

「ふざけてんのか」
「大真面目だよ。ねぇリヴァイ兵長、調査兵団にもルールってモンがあるでしょ?」
「従えと?」
「そういうこと。足を踏み入れたからには此処のルールに従ってもらわなきゃね」

といっても初回だから今日は特別に彼が戻ってくるまで一緒に飲んであげようじゃないか!


*


飲んでる間にも何人もの人間が女と共に、または1人で奥の階段を登り2階へと消えていく。1階の大広間は主に酒を飲んだり談笑する場所で2階は情事をする場所だそうだ。
気に入った女を時間単位で買うのが此処のシステムで、もし買い手が重なった場合は高い金額を出した方を相手する事になっている。ちなみに値段は均一ではなく売れてる女程高いのでそれなりの金が必要というわけだ。

「酒飲んでから上行くも良し、そのまま上に直行してアハンしまくるも良し」
「聞いてねぇのにペラペラと」
「エルヴィンみたいに情報貰ったり!」
「…情報?ヤってんじゃねぇのか?」
「周りに聞かれたらマズイからさ、そういった使い方する人もいるしね」
「何でもありだな」
「そうだよ、うちの子を傷付けなければ」

権力も地位も此処では無価値。
あるのはセックスと金と情報だけ。

客の中には大事なこと口滑らせちゃったりするわけよ。使えるモノとして聞き逃さないんだうちの子は。金さえ払えば何でもあり、その代わり出た言葉をどう使われても責任は一切負わないのがうちのやり方ってわけ。

「おっ、帰ってきた!お帰りー!」
「ただいま、いつも貴重な情報助かるよ」
「別に仕事だから」

時間が経っていたのかやがてエルヴィンと1人の女が帰ってきた。
金髪青眼。リヴァイよりも背丈が低いものの、何処か人を惹き付けるオーラを感じる。露出が激しいドレスからは谷間が見え程良く筋肉が付いている足は滑らかだった。淡々と返した女はリヴァイを一瞥する。

「…コイツは?」
「リヴァイ兵長だよ」
「あぁ…人類最強の兵士長」

下から上まで堂々と視線を動かし観察する。
それをされてこの男の気分が良くなる筈がない。すぐ様不機嫌になる。この女。

「おい」
「こんな小さいのか」
「おいクソ女」
「本当に強いか疑問だな」
「名前ぐらい言え」

その時バシャッと何かが掛かる音。
女がグラスに入った酒をリヴァイにぶちまけたのだ。頭に容赦なく掛かりそれはポタポタと下へ下へと染み込んでいく。あまりの出来事に周りも何だと少しざわつくがすぐに収まった。

「なら金払え」
「…」
「それがルール」
「…」
「お先に失礼、兵士長」

女はそれだけ言い残し2階へと去って行く。

「…」
「あはは!派手にやられたね兵長!」
「…なんだこれは…」
「リヴァイ?」
「おい、金さえ払えばいいんだったな」
「へ?うん」
「削ぎ殺してやる」
「落ち着け」
「ダメだよダメ!それ絶対禁「黙れクソメガネ」

次はハンジが頭から酒をかぶった。
あのクソ女覚えてろよ。

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