「今回の衣装はこんな感じ」
「おぉ…!」
「着るのはメイクと髪終わってからね、絶対汚すから」
「図星過ぎて何も言い返せない」

某スタジオのメイクルーム。
お馴染みの3人とは別にもう3人。
衣装を広げたのはアニ・レオンハート。デザイナーである彼女はレイの衣装制作を担当している。

「はい座って、それじゃ始めるよ」
「頼んだ」
「乾燥も荒れもない、うん…今日はノリすごくいいかも!」
「髪も同時進行でいきますねー」

優しいながらも程良い力加減でまずはメイク前の軽いマッサージ。これをやるだけでも血行が良くなり顔色も全然変わってくるらしい。化粧すら自分でした事がないに等しいレイは、それよりもこのマッサージの気持ち良さに感動していた。

「う゛ぁぁー…天国ゥゥ…」
「その声どうにかならないの?」
「ならん゛んあ゛あ゛ぁー…気持ちい゛い…」
「おっさんやめろ」
「ふふっ、じゃあ下地から」
「あ!肉まんが食べ「レイは本当にダメージが少ないですよねぇ、やりやすいです」
「ストレスねぇからなコイツ」
「確かに」
「…」

メイク担当はクリスタ・レンズ。
ヘアスタイル担当はサシャ・ブラウス。
レイの専属3人と、幼馴染み3人は昔からの知り合いでもある。

目の前に広がるたくさんのメイク道具。
アイシャドウにアイライナー、ファンデーション、チークにアイブロウ、リップだシェーディングだマスカラその他諸々…動くと怒られるので目でそれらを観察していく。
化粧品の知識が疎い通り越して化石なレイでも知ってるブランドや初耳なブランド。どれがどう違うのか全く分からん。色々と親切丁寧に教えてくれるクリスタが別次元の人に見えた。

髪も髪でセットしてもらってるとホント奥が深いと思う。
ヘアゴムなかったら別に輪ゴムで結んじゃうしな。絶対やめろって怒られたのでそれ以降100均のシュシュで結ぶ事にしてる。
使ってるやつ?リンスインシャンプーだけどダメなの?ちょ、原始的なメンズですかレイは…!ダメです!ケア効果が全く違うんです!コレ買ってあげますから使ってください!

「少し目閉じてくれる?」
「りょーかい」
「今回は?」
「サイドポニーの巻髪です、そろそろ終わりますよ」

雑談の傍らテキパキと作業を進めていく2人。いつ見ても仕事が早いとスケジュールを確認しながらユミルは感心していた。
本日は人気ティーン雑誌の表紙撮影。
若い世代からファッションアイコンとしても人気のある彼女は様々な雑誌から引っ張りだこになっている。
一通り作業を終えたクリスタとサシャがレイの前に回り込む。その目は職人のそれだ。

「目がもう少しこう、かな…うん…うん、出来たよ」
「こっちもです!」
「だから肉まん食べた「終わってからにして」
「!」
「相変わらずすごいね、ほら着替えるから立って」

毎回曲にピッタリ!って言われる衣装作っちゃうんだよねアニは。曲の制作に合わせてイメージしつつ私の意見とかも聞いて作ってるんだけど…それでどうして出来るのか摩訶不思議過ぎ。それが仕事だからね。衣装は真っ先に目に入ってくる重要な部分でしょ?手なんか抜けない。まぁあんたの意見はアテにしてないけど。ですよね!さすがアニ!

アニから衣装を渡されたレイはチャック外す、履く、袖通す、と一言一言レクチャーされながら着ていく。無事に着替え終えたらブーツも履いて最後の手直しをして。
ジャージでここに来てから数十分後、鏡の前にいたのは紛れもなくレイちゃんだった。
この姿になると不思議とスイッチが入る。
絶頂アイドルはどんな時でも120%アイドル!全力で仕事してやるんだから!

「俄然やる気ッ!!」
「あと15分でスタジオ入りだ、早めに行ってもっかい挨拶しとくか」
「はいッ!今日も頑張っちゃうよ!」
「私達もあとで行くから」
「わかった」

ユミルとレイを見送ると4人もスタジオに移動する為にこの場を片付け始めた。

「それにしてもファンとルームシェアしてるんだって?大丈夫なの?」
「1日パチンコしてるニートで通ってる」
「何ですかそれ」
「名前もそのまま?」
「そのまま。8等兵とも呼ばれてるらしい」
「8等兵?」
「末広がりにだらしがない」

8は末広がり、末広がりに…だらしがない

「「「なるほど」」」

妙に納得した3人であった。

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