どんな事が、何があっても時間は流れる。

人類の進撃は続いていた。
多くの犠牲を払いつつも。
一歩進み一歩後退しながらも自由を求めて戦ってきた。
何人死んだか分からない。
何人死ぬかも分からない。
それでもあと少しで大きな恐怖と犠牲を引き換えに手に入るとしたら。
死など恐くはない。

「いよいよだ」
「後戻りは出来ないな」
「当然、最後まで付いてくって言ったでしょ?」
「俺達はお前の指示に従う」
「頼もしい仲間と部下に恵まれたよ私は」

トン、とペンを作戦が多種多様に書かれた紙の上に置く。
人類の宿敵でもある巨人。
きっとこれが最後の戦いになる。

「といっても俺ら調査兵団の作戦は今回も博打か、お前の思い着くものは全てそれだ」
「でも大丈夫って思えちゃうよね」

各々の瞳に宿る決意。
全てが終わった時、誰が隣にいるだろう。
誰が死んで誰が生き残ってるだろう。
誰にも分からない。

「明日には兵士全員に伝える。今日はこれで終わりだ」

何事もなかったかの様に、いつも通りに会議を終わらせると何も言わずに外を見る。
その顔は長い間付き合ってきた彼等も見た事がない初めての表情だった。

いつ死ぬか分からないから結婚はしない。
前に本人から聞いた事がある。
だから恋人も結婚相手もいない。
でも今の彼には、愛する家族がいた。
血は繋がってない。
だから似ていないのに、似てると思うのはそれだけ彼等が何にも切れない強い絆で結ばれているからだろう。

「どうするんだ?」

主語がなくても頭の良い彼は何を聞かれているのかすぐに分かった。
預ける先は決まっていて万が一があった時の事も頼んである。
質問に淡々と答えた。

「レイには?」
「明日言うつもりだよ」
「そっか」
「どうしてだろう」
「?」

泣いたことはあまりなかったと思う。大声を出して笑ったこともなかったな。思い出と呼べるものも言えと言われたらすぐに出てこない。巨人を殺す為に部下の命を犠牲にしても、それが後悔しない方の選択だと思いやってきた。

私はそうやってきた。
今まで感情なんざ二の次、死ぬ事など恐れてない筈だったのに。何だろうなこの気持ちは。

「どうしてレイを思うとこんなに悲しくなるのかな」
「それはアイツの親だからだろ」
「お前のレイを見る目は父親のそれだ」
「子煩悩…じゃないな常に親バカ!」
「言いたい放題だなハンジは」

いやでも親バカじゃん。そんな事はない。嘘付け。私は節度を持った親だ。どの口が言ってやがる。じゃあレイの事は?世界で一番可愛いと思っている、とにかく世界で一番可愛い。お菓子が欲しいって言ってきたら?欲しいものを欲しいだけ買うが?そういうのを親バカっていうんだよ!

しばしの談笑。

「お前達と話すのはやはりいいな」
「残り少ないだろ」
「あぁ」
「いれるだけ一緒にいてやれ」
「そうするよ」

カウントダウンは始まった。
じゃあもう遅い時間だ、そろそろ休もうか。立ち上がったエルヴィンは3人に挨拶をしてから部屋を出ていこうとするが、ドアに手を掛けると動きはそこで止まる。

誰か自由だと言って欲しい。

「私は…」
「エルヴィン?」
「大きくなったレイの花嫁姿が見たい」

そう、願うだけなら自由だと。

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