怒涛の勢いで平日を終え何もやる気が起きない程に疲れ切った土曜日。
普段はしないが二度寝も今日くらいはいいだろうと。けれど起きたら隣にミケがいない。先に起きたのか?だが相棒と呼んでいるノートパソコンが机の上でそのままになっている。携帯も。この家の何処にもいない。
アイツが…いなくなった?
起き上がり部屋を出るとまだ昼前だというのに薄暗いリビングのソファに座る。滅多に付ける事の無いテレビに映る天気予報。
『今日は1日雨の予報です、お出掛けの際には必ず傘を持ってくださいね』
外から聞こえる雨の音。
もう用は無いのでテレビを消すと更に雨音が大きくなった気がした。玄関には傘が立て掛けられていてそのまま。片手に持ったミネラルウォーターが歩く度ペットボトルの中で跳ねる。
「何処行きやがった」
薄暗い家、あるのにない。
アイツのモノはあるのにアイツがいない。
空っぽになっていく感覚がリヴァイに話し掛けるような。意外と律儀なアイツはいつも起きたらおはよう、だとかおやすみ、ありがとうと言ってくれる。まだ俺におはようって言ってねぇよ。それなのに。
おかげで動く気も失せちまった。
リヴァイは玄関の壁に背中を付けてズルズルと座り込む。こんなに自分の頭の中が機能しないのは初めてだ。帰ってくるのだろうか。出て行ったんじゃねぇだろうな。
お前といる時は、そんなに退屈じゃない。って言っただろうが。ありゃ嘘か?
「…ふざけんなクソが」
片隅で思ったりしてない、寂しいとか心配という感情なんか別に。
だからドアが閉まった時は勢い良く顔を上げてしまった。柄にもなく。そこには全身ずぶ濡れになったミケが。
「ただいま」
リヴァイは応えることなく早歩きでバスルームからタオルを取り出すと1枚はミケに投げ渡し、もう数枚は濡れないように床に置いていく。
「さっさと風呂入れ」
「そうだな」
「濡らすなよ」
「努力する」
*
「…テメェ…しっかり拭いてから来いっていつも言ってるだろうが」
髪が濡れてる事に不満なリヴァイは首のタオルを引き抜きガシガシと頭を拭き始めた。
「?前が見えない」
「拭いてんだから当然だろ」
そろそろいいだろうとパッと手を離すとほぼ乾いたボサボサの髪の毛、濡れたまま風邪引かれるよりマシだ。あとは手ぐしでどうにかしろと言えばわかった、と。コクリとミケは頷く。
だが不満。不機嫌丸出しの顔で尋ねる。
「何処行ってた」
「買い物」
「買い物?」
「紅茶を」
「茶葉切れてねぇぞ」
「そうじゃない」
ここ最近のお前が疲れてる感じだったから。
紅茶にはリラックス効果があるが俺が仕事をしていた時に、特に疲れた時に飲んでいたのをどうかと思って買ってきた。少し濡れた袋の中から出てきた茶葉缶。
「モンターニュブルーといって、ラベンダーとフルーツフレーバーのミックスティーだ」
「…これを買いに?」
「あぁ」
少しでも疲れが取れるといいんだが。
俺はこういう事しかお前に出来ないから。
真っ白な缶に英語表記されたシンプルなデザイン。コイツがいなかったのは俺の為に紅茶を買いに行ってたから。
「…傘も携帯も持たねぇで」
「すまん」
「おかげで心配した」
「?俺は子供じゃない」
「大人子供関係ねぇんだよ」
リヴァイはわしゃわしゃとミケの頭を撫で回す。次にわざと頭をゴン!と腕にぶつけてみたらポンポンと逆に頭を撫でられた。何だか心地いい。
心配させた罰に今日はすこぶる我侭でも言ってやろうか。
「俺もお前といる時は退屈じゃねぇ」
「ありがとう」
「だから紅茶淹れろ」
「わかった」
「そしたら三度寝に付き合え、今日は寝るに寝る」
「あぁ」
ちゃんと帰ってきた。
大きくて無愛想に見えてそうじゃない金色の毛並みをした優しい俺の猫。
特技は紅茶を淹れること。
あと猫のクセにパソコンが得意。
「次からは俺も一緒に行く」
「トイレもか?」
「バカ野郎、それはこっちから願い下げだ」
「冗談だ」
最後にお前が好きだ。
「おかえり、ミケ」
「ただいま」
だからお前も俺を好きでいろ。
異論は認めねぇからな。
(君がいれば、365日紅茶日和)
End