今日が休日らしい暴君は高らかに言う。

「買い物に付き合え」
「俺は今旧市街エリアのレア奇行種イベントで忙しい」
「そうか」

瞳孔全開からのバケツ、なんだいつもの戦法かワンパターンめ…いや違う!よく見れば入ってるのは水だけじゃない。こ、氷まで入ってる…!氷水…だと…!?アップデートしただなんて聞いてないぞ…!

「待て早まるな」
「買い物に付き合え」
「こ、これが終わったら付き合うからもう少し待っててくれないか?」
「…」

リヴァイはその言葉に驚く。
前だったらバケツに怯みはするものの、嫌なモンは嫌だと突慳貪に言い切ってテコでも動かなかったのに。それがあっさりと。

「わかった」
「あと10分もかからない」
「用意して待ってる」

流れる様な手付きでキーボードを叩くミケを背に部屋のドアを閉じる。今から10分、早いようで長く感じるに違いない。1秒でも過ぎたらあのデカヒゲの尻蹴飛ばしてやる。考える事とは裏腹に、嬉しそうな顔をしているリヴァイを知る者はいなかった。


*


しかしいつ乗ってもこの車、笑える位に乗り心地がいい。何日車中泊してもいいくらいだ。そんな事を思ってる人物はまた珍しい、パソコンを持ってきているが開いていない。パタンと閉じられ膝の上に置かれている。

「やるんだと思ってた」
「部下に全て指示してある」
「クソニートが部下か」
「優秀揃いだ、俺が出なくてもイベントの順位に支障はない」
「そうかよ」

向こうじゃ随分と楽しそうにやってるみたいじゃねぇか。面白くねぇ。頬杖を付きながらリヴァイは興味無さそうに返した。

音もなく目的地へと走りいつの間に着いたのか専属らしい運転手がドアを開け外に出ると、如何にも高いモノを取り扱っているであろう店の佇まい、寝具店らしい。相棒、こんな所縁がないと思ってたが来てしまったな。出迎えた店員もオーラが違う。寝る為だけに大金を出すのか意味が分からん…ってそうだ、こんなチビでもリヴァイは社長だった。今もどこかに電話をしているし休日でも多忙、俺と同じだな。

「枕でも買うのか?」
「ベッド」
「持ってるだろう」
「もっとデカくないと意味がねぇ」
「お前の身、いや何でもない」

お前の身長ならあのシングルベッドで十分だろう、という言葉は言わないでおいた。見栄を張ってるのかもしれないのでそっとしておくに限る。

「コレしかねぇな、?」

買い物は時間をかけないタイプ。
だから即決したキングサイズのベッドをどうだと確認のつもりで振り返ったらいた。何故か遠くに。何やら熱心にシーツ見てやがる。勝手に離れやがってあのクソ猫。
支払いはカードで一括。贔屓にしてるからか、なるべく早くの一言で明日には届くとの事だった。俺と一緒に来たのを忘れてるんじゃねぇかってくらいにシーツ見てるミケのパーカー掴んで店を後にする。

「引っ張らなくても歩ける」
「明日から寝る時は俺の部屋だ」
「は?」
「2人でも問題ない大きさを買った」
「1つのベッドで寝るのか?」
「そうだ。前のを処分する手配はしておいた」
「何だそれ」

さっきのは仕事の電話じゃねぇのかよ。

「勝手に決めるな」
「俺の家だ」
「ぐ」
「嫌なら床で寝てろ」
「う」
「俺の部屋でパソコンやっていい」
「それなら…わかった」

年齢=何とやらのミケは特に深く考える事もなく了承した。結局のところ脇に抱えてる相棒と一緒なら何でもいいのだ。


*


次で最後だと言われて来た場所はリヴァイ行き付けの紅茶店。アンティーク調の落ち着いた造りで壁には所狭しと茶葉が置かれている。実は俺もこの店によく来ていた。仕事をしていた時に。フレーバーティーが好きで特に気に入っていたのはアンブレとグランボアシェリ・バニラ。

原産地が中国・セイロンのアンブレは濃いオレンジ色をした紅茶。ハチミツとオレンジによるフレーバーだ。
グランボアシェリ・バニラは同じく中国・セイロンが原産地で濃い茶色。芳醇なバニラの香りでミルクティに向いている。

「…」

いつものダージリン頼んでたらいねぇ。
と思ったらデカい図体屈ませて熱心に茶葉を見ていた。また性懲りも無くフラフラフラフラ勝手に。茶葉を受け取りミケのパーカー掴んで店を後にした。

「伸びる」
「急にいなくなんな」
「あの広さで迷子にはならない」
「うるせぇ」
「腹が減った。何か食ってから帰ろう」
「お前の淹れた紅茶が飲みたいからこのまま帰る」

茶葉缶をズイっとミケに手渡す。

「飽きないのか?」
「飽きねぇ」
「ならあの店のモンブラン買ってから」
「チッ、仕方ねぇな」

自由気ままに動いて振り回して。
それでも嫌な気がしないのはきっと、

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