十年前。

ETUを騒がせた期待のエース、達海猛はいわゆる私の中の世界の中心としても過言ではないほどだった。

もちろんそれは幼い頃の話で、単なる憧れに等しかった。

否、中学校に上がったばかりの私はそういう感情をまだ理解してなかったのだ。
思えばいつからだろうか。
憧れと言う感情に疑問を抱いたのは。

いつか、とは些か断言しづらい。
ただただひとつ断言出来るとすれば、
幼なながらあの人に恋心という厄介なものを抱き、
それをずるずる引きずっている、ということだ。


こう長々と達海猛の昔話をしたのは理由がある。
時は十年後。
イングランドのクラブチームに行ったまま
連絡も途絶えたあの達海猛が後藤さんに連れられ帰ってきたのだ。

私の中の世界の中心が、監督になり、舞い戻って来たのだ。
それを知った時、放心してしまった。


放心をしながらも達海猛を探せば、グラウンドに突っ立っていた。

「達海さん、」

とそういえば達海さんは振り返り、十年ぶりの変わらない笑顔を私に見せた。


なんで今更こっちに来たんですか。

どうして、なんで、いろんな気持ちが交錯して口にも出せない。

それを見兼ねた達海さんは

「なんで今更こっちにもどってきた、って顔してんなぁ、なまえ」
と少し眉を下げてこう言った。


その言葉は私の気持ちを代弁したかのような言葉。

更に黙りこくってしまう私。


それが何分か経とうとした時、
達海さんが口を開いた。

「なんかさ、こういう事言うの普段俺じゃない気がすんだけどさ、なまえ」


そこで一旦達海さんは言葉を切った。
気になって、
「、なんですか」
と問えば、更に困ったような顔をしながらこう答えた。

「お前に会いに来た、って言ったら驚くか」

物凄く驚愕した。と言う表情をするが、
私の頬はきっと、いや絶対よく熟れた林檎の様に真っ赤であろう。


そんな私を見た達海さんはまた笑った。

「俺ロリコンかなー。向こう行った後ずっとピッチの外でニコニコ笑ってたお前が酷く頭に残ってたんだよなぁ。そしたらさ、後藤からなまえが有里と一緒に広報で働いてるって聞いたから、つい」

「ついってなんですかついって。…意外と、嬉しいです
達海さん……お帰りなさい。」

「おー、ただいま、なまえ
これからは、ピッチの中でよろしくだな、にひー。」

勝負師の様な笑み。これは期待しても良いのだろうか。
私の中のくすぶっていた恋心が、また花開いてしまった。

「もし期待してんだったら、その読みは当たりかもなー、なまえ。にひー」


どうやら期待しても良いらしい。私の中の世界の中心は改めて、私の世界で一番の、ひとに。

「好きだよ、なまえ」



(あなたがいないと私の世界は止まったまま。)(私も好きです達海さん)




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