マルコ(海賊)



朝だ。今日は何だか、やけにすっきり目が醒めた。時計を確認すると、針は四時ちょっと前を指していた。一瞬、一日寝過ごしたかと思って頭が真っ白になったが、すぐに思考が追いついて、余程のことがない限り夕方にこの静けさは有り得ないだろうと納得した。

しかし夕方どころか、まだ夜明前だということに気付いてげんなりする。もうすっかり頭は眠りから醒めていて、二度寝なんてできそうになかった。
仕方がない。いつもより三時間は早いが、起きることにしよう。
頭が活動を始めるとお腹も空くようで、わたしのお腹の虫は元気にぐううと空腹を主張する。キッチンに行けば何か食べるものもあるだろう、カーディガンと膝掛けを持って食堂に向かった。


「あ、マルコ、おはよう」

「ああ、おはよう。今日はやけに早いじゃねェかい」

「何か目が覚めちゃって。マルコも早いね」


食堂にはマルコ、サッチの二人しかいなかった。サッチにも挨拶し、何か暖かいものちょうだい、と頼み壁に寄りかかる。


「なに読んでるの?」

「新聞」


マルコは、俺はいつもこの時間に新聞読むのが日課なんだよい、と細かい文字の羅列を額に皺を寄せながら読んでいた。
こんな時間から食堂に人がいることも驚きだったが、毎日欠かさず新聞を読んでいる彼に、よく飽きないなあと感心した。
この船で新聞を読んでいるのなんてマルコ位じゃなかろうか。しかも毎日だなんて。流石みんなのマルコ隊長である。

ほらよ、とカウンターに出されたホットチョコレイトを受け取り、マルコの向かい座る。
特に何を話すでもなく、ぼーっと彼の顔を見つめていたら何か違和感とぶつかった。
あれ?何だかいつもと違うような。

うーん、と首を傾げて考えるがわからない。何だろう。むず痒い。
しかし、その違和感は彼がガサッと新聞のページを捲った瞬間に解決した。


マルコが、眼鏡してる。


「ね、ね、何それ」

「新聞」

「さっき聞いたよ。じゃなくて、その眼鏡。どうしたの」


あー…と言葉を濁す。何だろう、訊いちゃいけなかったのか。でもそんな態度されると余計に気になる。
両手でマイカップを持ちながら純真さをアピールして返答を待っていると、私の瞳を見てからはあ、と大きなため息を吐き、ついにマルコはその重い口を開けた。


「…老眼鏡だよい」


最近近くにあるものが見難くなってな、先日降りた街にいい技師がいたから作ってもらったんだよい、と教えてくれた。


「老眼鏡…」


私はにやにやしながらその話を聞いていたが、マルコが気味悪そうに私を見るので一つ咳払いをして顔を直した。


「いいんじゃない?よく似合ってる」


まだ顔を渋らせているマルコにそう言うと「老眼鏡が似合ってるって言われても嬉しくねェよい」と返されてしまった。

そういえば普段掛けているのを見たことないし、あまり老眼鏡を掛けているのを周りに知られたくないように見える。老眼ということに対してコンプレックスを感じているのだろうか。
せっかく作った眼鏡が勿体無い。


「素敵なのに、老眼鏡」

「あんまり老眼老眼言うんじゃねェよい」


変な意地。だが、周りの知らないマルコを私だけが知っている、というのは二人の秘密のようでちょっと嬉しかった。

そのことを本人に言ったら「サッチも知ってるがな」と冷たく返されたが。まったく、このバナナ頭は乙女心というものをお分かりになっていないようだ。まあ、三人でもいいか。
彼の新たな一面を知れたことを素直に喜ぼう。自然と笑みになる口元を抑えながら私はホットチョコレイトを、マルコはブラックのコーヒーを飲み、朝がやってくるまでの柔らかな時間をゆるりと楽しむことにした。




早起きは三文の徳



朝早く起きたら眼鏡のマルコに会える、そう考えたらまた早起きしてもいいかなと思った。




20110123.
(老眼鏡企画の早漏小説)

20120305.ちょっと編集
20180427.ページ変更


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