─継承式会場上空─
「おー結構いるじゃん!」
「そりゃ、ボンゴレの継承式とあれば各国のマフィアが注目するさ。」
「あ、あれ跳ね馬とツナヨシ達じゃね?」
離れたところにヘリポートもあるが、そんなところからわざわざ車で移動するのもかったるいので、そのまま飛び降りた。もちろん、そのまま会場内へ。
「う"お"ぉい!!」
スーツを着こなすどころかスーツに着られているような、まだケツの青いガキ。
マフィアだらけのここで、違和感しか与えないようなこいつらが今日の主役。ここにいる誰よりも名のあるマフィアになるだろう。そして、未来の戦いを乗りこえてきたこいつらは、たぶんここにいる誰よりも強い。
「久しぶり…でもねぇかあ!カス共ォ!」
「相変わらずだなスクアーロ。ザンザスは…」
「ウチのボスは欠席だぁ!来るわきゃねぇ!ついでにエミの奴もなぁ!!」
「エミさんもきてないんだ…」
エミがこないことを知り、残念そうな顔をしたのは沢田だけではなかった。
未来で何を話したのかは知らねえが、あくまでエミはウチの副隊長だ。こいつらとなれなれしくする筋合いはねえ。
「てめえら、未来で散々一緒だったんだからいいだろーが!」
「スクアーロ、ヤキモチ妬くなって」
「あぁ?うるせえへなちょこがぁ!!」
不愉快な声が聞こえてきたと思えばこいつだ。キャバッローネファミリーボス、ディーノ。昔からいけすかねぇ奴だったが(へなちょこで)、最近はガキどもの兄貴分ぶりやがって爽やかキャラなのがまたむかつく。学生時代はことあるごとにピーピー泣いていた野郎のくせに。知ったような口聞きやがって。
「う"お"ぉい!稽古はサボってねえだろーなぁ」
「ハハッもちろんだぜ!」
「!」
「!」
違和感を覚えたのは俺だけではなかったようだ。
沢田の襟筋を引っ掴み少し離れたところまで引っ張っていくのに、跳ね馬もついてきた。
「山本武はどこにいる。わけありかぁ?」
「い"っ」
「お前が言ってこない限りつっこまねぇが、なんでも相談してこいよ。力になる。」
山本武は幻覚だ。恐らく、向こうの霧の守護者の女の作り出している。周りのモブ共にバレちゃいねえが、この大事な式に欠席するほどの何かが山本の身に起きたことは間違いない。
こんな世界だ。ボンゴレに楯突く組織が動いていてもおかしくねぇ。こりゃ、この継承式、何かが起こるかもしれねぇなぁ。
「行くぞ、てめぇーら!」
「足離せよ。」
「しししっ、やーだねっ」
「遊んでんじゃねぇぞぉ!」
「これはこれは。最強の暗殺部隊の幹部の皆様が揃ってジャッポーネへ…。10代目の護衛ですか?」
沢田たちの元を離れ、じゃれ合うマーモンとベルをひっぺがしたところにその声はかかった。
そこにいるのに存在感はない。
敵意も感じないが好感なんてものは微塵も感じない。
生気の感じられない無機質な男だ。
「誰だてめえ。気安く話しかけてきてんじゃねぇぞぉ。」
「おやおや。噂通りのお方のようですね。あなたの最も大切な方はこちらにいらしてないのですね。」
「……………ちっ、いくぞぉ」
マフィアだらけのこの場所で何か一つでも騒ぎを起こせばそれが引き金となり大惨事になることは、ここに参加している者全てが重々承知の上で、そんなことをしたところで、この大ボンゴレの継承式の前にはぷちりと捻り潰されてしまうことも目に見えてわかっている。そんなバカでも、格下すぎるマフィアでもわかる常識を、この無機質な男はまさか知らないとでも言うのだろうか。
同僚や昔馴染みの見つめる中、このわけのわからない男の質問に舌打ち一つで返すにとどまったスクアーロはここ数年で一番理性を効かせ、大人の対応をした。
男から離れ屋敷内に入ったところでついにベルフェゴールとマーモンが笑い出し、ディーノには肩を叩かれ労いの言葉をかけられた。ルッスーリアに至っては、息子が初めて立ち上がったのを喜ぶ母親のように喜んだのだった。
「おまえら後で覚えとけよぉ!!」
「しかし、どこのファミリーのもんだろうな。スクアーロに話しかけてくるなんて。」
「う"お"ぉい!それよりてめえ、気抜くんじゃねぇぞぉ。」
「あぁ、分かってるよ。」
跳ね馬は、迎えに来たロマーリオと共に屋敷の中へと姿を消した。
この継承式、何かある。