時期ボンゴレボス沢田綱吉の就任式を、彼の生まれ育った国、日本で執り行う旨の招待状が配られたのは、エミが9代目に呼ばれてから数日後のことだった。
ご丁寧にヴァリアー幹部一人一人に届いたその招待状は、ボスであるザンザスにももちろん届いたのだがものの二秒で灰になった。中身すら見ていないというのに。私は昔からザンザスは超直感があるんじゃないかと思っている。
「う"おおい、ボスさんよお!行くのかぁ?」
「死ね。ドカス。」
「ぐはぁっ」
なんて馬鹿なことを聞くんだろうスクアーロって男は。
誰もが気にしていて、それでも聞けなかったことをこの男は聞いたのだ。それもとても軽いノリで。
案の定スクアーロの頭めがけて椅子が飛んでいき律儀にもそれを頭で受け止めいつものように叫ぶ。馬鹿だけどいい奴だよねスクアーロは。
結局ザンザスとエミ以外の5人には日本に行ってもらうことになった。
「エミは行かねーの?」
「うん。綱吉達とはついこの間まで一緒にいたし、ザンザスが残るなら私も残るよ。仕事もあるしね。」
「やはりここは俺も残るべきか…」
「おまえみたいなのがボスの近くにいたら、ボスの気が散るっつーの!」
「なんだと貴様!!」
あぁ言えばこういう。そんな言葉がぴったりな子供じみた口喧嘩が常のヴァリアーではあるが、一応主催者であるボンゴレファミリーの部隊として継承式に参加するのだ。ただでさえ、日本で起こした争奪戦の謹慎が明けたばかりの私たち。見ていると思う。私たちの態度なども。
「みんな、向こうでは大人しくしてるのよ。」
「俺らが周りの目気にするタマかよ!」
うん。気にするような人たちじゃないよね。
しかし、終わった戦いについてもうだうだ時にするようなことはない。私たちは本来ならばあの場で、いや、8年前のあの日に罰として殺されてもおかしくないのだ。そういう世界に身を置いていることは十分理解している。
「スク、みんなのことよろしくね。」
「う"ぉおおい!俺は子守じゃねぇぞぉ」
「それでも!何も起こらないといいけれど。」
「心配すんなぁ。クソガキどもの顔拝んだらすぐ戻る。」
みんなが日本に旅立った後の談話室はなんだか静かだった。
ザンザスが氷漬けにされる前はみんなが集まる場所なんて無いに等しかった。まだ子供だった私とザンザスがたまにここで遊んでいただけで他にはほとんど人はこなかったし、ボスも母様も忙しくてたまにしか顔を出してはくれなかった。
ザンザスがボスになって、スクアーロがやってきて、ベルがやってきて。
だんだんと賑やかになっていくここ。
その賑やかさの中には大好きなボスの姿はなかったけれど、その寂しさを感じないくらいここは私にとって居心地のいい場所になっていた。
10年後の未来で帰りたいと思ったのも、みんなのいるこの場所だった。
ううん、本当は場所なんてどこでもいいんだ。
帰りたかったのは、みんなの元。
そこがイタリアでも日本でも、私にはどうでもよくて、ただ、みんなが笑っていられる世界なら良かった。
日本ー
未来の俺は、今から8年前に誓ったはずのザンザスの夢を叶えてやることもできないまま、それでもあいつの元で剣を振るっていた。
今日、ザンザス以外の男がボンゴレの10代目の座につく。
俺は正直、ザンザスが10代目だろうがヴァリアーのボスだろうがそこらへんのマフィアの一員だろうが構いやしねえ。あいつはその地位におとなしく埋まる玉でもねえし、結局何になろうともザンザスが変わることもねえだろう。
ボンゴレの御曹司だからついていきたいと思ったわけじゃねえからなぁ。
ただ、あの日3人で誓い合った夢を、ザンザスに夢を見させてやりてえと思って今までやってきた。それが今日この日、終わりを告げる。未来の俺の髪は相変わらず長かった。未来の記憶は白蘭との戦いに関するものだけしか伝わっていないため、自分のことなのにどこか他人の戦いを見ているような気分にもなった。まるで走馬灯のように走り抜ける戦いを俺はどこかで見ているようなそんな感じだ。
10年間の出来事やその間の思考などはまったく伝わっては来ていない。それでも俺は10年後も確かにザンザスの下にいて、エミのそばにいた。
誓いの髪を切ることなく。