一輪の華
世界には無情にも影がある

未来での記憶は9代目にも伝えられた。





「どうかね。」





実際に未来に行き共に闘ったエミをボンゴレ本部へと呼び出し聞く9代目。




確かに綱吉はあの白蘭に勝った。格段に強さも増したし経験値もかなりのものになったはず。


それでもあの子にはマフィアが似合わない。


いつかあの子の優しさは自分自身や周りを蝕みがんじがらめにしてしまうのではないか。優しすぎる綱吉は全部を守ろうとする。自身も守られている立場にいる今はそれでいいのかも知れないけれど、トップを張るということは時に何かを切り捨てる覚悟も持ち合わせていないといけない。彼はまだその選択はできないだろう。




「何より、綱吉自身がマフィアにはなりたくないって言うと思うわ。あの子あぁみえてなかなか頑固なんですもの。」

「そうかもしれないね。でもね、わたしは綱吉君なら今のボンゴレを壊してくれると思っているよ。」






壊す、か。


私が未来に行ってすぐに恭弥のボックス兵器に閉じ込められた綱吉もボンゴレを壊すと言ったんだっけ。何を見たのかは知らないけれど、綱吉は確かに今まで積み重ねてきたボンゴレという歴史を壊し、新たなものにしてくれる人だと思う。



ザンザスはボンゴレを守りたかったんだ。


古くから繰り返されてきたマフィア間の抗争。その上に成り立つ今のボンゴレ。ザンザスは積み重ねられてきた怒りや憎しみからボンゴレを守りたかったんだと思うんだ。でも、9代目も指輪もそんなことは望んでいなかった。もう繰り返さないように。今ここで、綱吉の手によって古くからのボンゴレを壊し、また新たに始まるんだ。





「うまくいくと思いますか?」






綱吉が与える影響力を私は知っている。素朴で平凡な、どこにでもいる男の子なはずなのに、その澄んだ瞳は何かを悟り、人の悲しみに敏感に反応する。いつも眉を寄せその拳に祈りを乗せて戦う。



そんな彼にだからこそ白蘭は倒せたのだと思うし、未来のザンザスたちも助けてくれたのだろう。



でも物事には順序があり、過去はどうしたって変えられない。怒りや憎しみのない世の中は理想の中の理想であり、それを望むことはあっても、どうしたって現実にはできないものなのだ。




「いつの時代にも影というものは必要なのかもしれない。」

「…………………」





綱吉が光ならば、私たちは影なのだろう。



私が9代目を未だに好くことができないのは、中途半端に優しくて中途半端に残酷だから。


綱吉に選択を委ねるふりをして彼が最後には断らないのを知っている。作るよりも壊すことの方が難しく波風が荒くなることも知っていて、それでも優しい綱吉に任せるつもりなんだ。

今まで誰もできなかったことを、今までの誰よりも優しい彼にやらせようとしている。そして、生まれ変わったボンゴレにもやはり裏と表があり、その裏である影の部分を息子であるザンザスに背負わせる。憎しみを断ち切るための仕事が新たな憎しみを生み育てる。そのサイクルは変わらない。





「まぁ今も昔も私たちのやることは変わらないもの。これからもボンゴレの影であり続ける。ただ忘れないで。ザンザスは小さい時から見てきた強いボンゴレが好きなの。強さは違えど綱吉がボンゴレを守ってくれるならなんの文句も言わないけれど、軟弱な組織なんかにした時には黙ってないわよ、きっと。」

「あぁ、分かっておるよ。」

「私も綱吉のことは好き。だけど、やっぱり私のボスはザンザスなのよね。それも変わらないと思う。」






そう。たとえ綱吉が10代目になってボンゴレが変わったとしても。私たちヴァリアーのボスはザンザスただ一人で今まで通りの仕事をこなす。表がいくら変わったって影の黒さは変わらないものだから。






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