一輪の華
はじまりの便り

ある日起こった大きな地震。


その地震は、血眼で探していた人物を未来の世界から連れ帰ってきただけでなく、未来での悲劇を繰り返さないためにと、贈り物まで運んでくれた。

また、未来で関わった者達に記憶として未来での出来事が走馬灯のように流れ、一時ひどい頭痛が彼らを襲ったのだった。


なんにしても、これで我らのボスの機嫌も治る。


そんな、たくさんの贈り物を運んできた地震であった。


「ねぇ、マーモン。匣兵器たちは連れてこれないんじゃなかったっけ?」

「それは僕たちからのほんの気持ちさ。」


未来の彼らとの別れをほんの少しだけ惜しみながら、こうしているべき時代に帰ってきた。

イタリアの独立暗殺部隊本部からそう遠くない林の中に私とマーモンはいた。帰ってきた。まだ誰にも会っていないが、触れる空気がそう感じさせる。ここは、10年前の、いや、私の世界だと。


未来の世界の産物は、過去に影響を与えてしまうためその全てを向こうにおいてきた。

ヴァリアーリングも匣兵器も匣アニマルたちも。

しかし、帰ってきた自分の指には見知らぬふたつの動物の顔をかたどった指輪がはまっていた。腰には武器を収納する匣もぶら下がっている。

10年後のザンザスへと手渡したヴァリアーリング以外は、アルコバレーノの力によって現代に連れてこられるようになったようだ。


「ありがとうマーモン。」

「礼には及ばないよ。10年前の君たちのおかげで僕は生きていられるんだ。」


未来からここまで送り届けてくれたマーモンへお礼を言う。日本ではなくイタリアをチョイスしてくれたので、屋敷は目と鼻の先だ。
日本に帰るものだと思っていたものだから、綱吉達にはなんの挨拶もしていないけれど、別にいいだろう。二度と会わないわけでもないし。


「10年後のマーモンとはここでお別れね。」

「ボスが暴れてると思うから早く行ったほうがよさそうだね。」

「帰ったらゆっくりしたいと思ってたんだけどなー」


その頃ーー

「う"ぉおおおおおおおい!!!今のはなんだぁ!!前髪下ろしたクソボスと日本のガキどもと、エミもいたぞぉ!?」

「ちょっと王子やるべき使命を見つけた。今すぐこの喋るサメを串刺しにして、血祭りにあげてやらなきゃいけねーらしい。」

「てんめっ、今じゃれてる場合じゃねぇだろあっち行ってろクソガキィ!」

「そうよベルちゃん!ボスの色気!!!やばかったわよねぇ!?」

「そういう話でもねぇ!黙れオカマ!!!」


談話室にいたスクアーロ、ベルフェゴール、ルッスーリアの3人も、時間にして数秒程度の頭痛に苦しみながら未来での一連の出来事を知った。

現代で、日本の10代目候補とその守護者達が次々と行方不明になっていく中、9代目の命で日本に発ったエミまで消えた。


ザンザスが暴れまくったのは言うまでもなく。
ただでさえ指輪をかけた戦いで謹慎を受けていて機嫌が悪かったところに、エミまで行方不明とくればザンザス以外のメンバーも各々ダメージをくらっていたのだ。


「ぐふぉあ!!!!」

「邪魔だ。どけ。」

「ボス!!」


噛み合わない盛り上がりを見せていた談話室の扉を突き破ってきたのは、ザンザスに吹っ飛ばされて白目をむくレヴィ。ソレを踏みつけて入ってきたのはやはり機嫌の悪いザンザスだった。
これでも大人しくなった方なのだ。これでも。


「う"ぉおおい!おまえも見たのかぁ!?」


見たとは、未来の記憶のことだろう。


スクアーロの問いには一切答えずに、まっすぐ定位置に歩いていくザンザスも確かに見ていた。

崩壊した世界。

その世界に君臨する男。


立ち向かう、ついこの間まで尻の青かったガキども。それを援護していた未来の自分たちと、この時代のエミ。


見ているエミは自分たちのよく知るエミなのに、それを見守る自分の思考が自分のものではないように感じた。10年後の自分の思考や行動を、端的にではあるが共有したことで、ある程度の未来の予想ができてしまった。


エミが帰ってくる。
言いたいことは山ほどあるが、今はひとまず帰ってくるエミを迎えてやる準備をしよう。


2016.06.15 加筆修正

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