一輪の華
心に響く声に、抗う


憎い。憎い、憎い、憎い。



全てをこの手で壊してしまいたい。

そうすることで例え得るものがなかったとしても、今はそうすることが最善としか思えない。


それと同時にすべてをなかったものにできるなら。








自分の手に妙に馴染む一丁の銃。それに刻まれるエンブレム。そのエンブレムは私を縛り蝕んでいく。闇に引きずり落とされるような気分だった。震える手からこぼれ落ちたそれを拾う気にはれなかった。



何に怯えるのか、自分でもわからないのに止めることもできなくて。寒いわけではなかったが、自分で自分を守るように両腕で抱き込んだ。そしてふと目に映るコートの胸元。そこにもやはりヴァリアーのエンブレムがその下にある心臓を鷲掴みにするかのように居座っていた。止まらぬ震えに加え、息苦しさも相まってとうとう息を荒げ膝をついたエミ。目にはうっすらと涙の膜さえ張っている。





「帰りましょう。あなたのやるべきことがあるはずです。」






エミの肩に優しく触れ、まるで幼子をあやすかのように諭す男。物腰柔らかなその男の口調は一見穏やかだが、有無を言わせない強い支配力があった。




しかしエミは、駄々をこねる子供のように勢いよく首を左右に振った。嫌々と、首を振るその姿に驚いたのは男の方だった。相変わらず震えの止まらない体を、自分自身の腕で抱き込みながら必死に何かに耐えようとしている。しかし、こらえきれず溢れた涙は、一滴二滴と彼女の膝を濡らし、ついには雨のようにポタポタと溢れ出した。








「嫌……、嫌、嫌ぁ!!!」









何かに怯えて全身を震わせるエミは、「帰る」という言葉に過剰な反応を見せそれを嫌がった。これは男にとっては誤算だった。しかし、それ程までならば、男はまた何か思いついたようににたりと不気味に微笑んだ。





「では、わたくしとともに参りましょう。」








そうして男についてきたエミは、一つの部屋を与えられた。一人で過ごすには十分な大きさの部屋が一つ。大きな窓もあり、そこから陽の光も月の淡い光も差し込む部屋だ。そんな陽の光がたくさん入る部屋でひとり、ポツンと過ごすのはとても寂しい気がした。



昼間はカーテンを締め切り、せっかくの陽の光を遮断して、夜は明かりもつけずにいる。しかし、完全な暗闇は居心地が悪いのか、カーテンを開け月の光を部屋へと招く。




暗闇が嫌いなのか、居心地が悪いのか。

それともあえて暗闇の中に身を投じるのか。

月明かりに目がくらむのか、心安らぐのか。

ここにいたいのか、いたくないのか。

帰る場所はどこなのか。








何も、わからない。




それでも、胸の奥から溢れてくるこの感情のはけ口を探してる。




憎い。憎い、憎い憎い憎い。











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