一輪の華
魂の叫びに耳を澄まして

「エミはなんの事件を調査してたんだい?」






手がかりがないに等しい今、あの男を探し出すためにはエミが最後に追っていた事件を調査する必要がある。




マーモンの問いに、ザンザスは幾つかの資料を寄越してきた。すべて最近起きたばかりの新しい事件で、犯人は原因不明の死を遂げている。大小様々ではあるが、どれもファミリーがほぼ全滅するほどの被害である。







「これがエミが調査してた事件かぁ?」

「ランクD…ぺーぺーのペーでもこなせる超簡単任務じゃん。なんでエミがこんなん行ってんの?」

「そこにいたドカスを連れて日帰りで帰ってくるはずだった。」







日帰りで帰ってこれる任務だったはずなのだ。それが日をまたいでも帰ってこないので連絡を入れたのだが繋がらず、何か不吉な予感がしたザンザスは部下を現場まで向かわせた。そして連れ帰ってきたのがさっきまでそこにいた新人と、エミの隊服の上着、そして一丁の銃だった。






「これって確か未来のエミが使ってたもので、それを未来のスクアーロが渡したんだったわよね?」

「あぁ。未来のエミに渡してやったのはザンザスらしいがなぁ。エミが入れ替わる前に、未来の俺に渡してったらしい。」








ヴァリアーのエンブレムと、紅いXのマーク。ザンザスの使う二丁銃と同じデザインだ。記憶の中のエミは、俺からそれを受け取った時とても嬉しそうな顔をしていた。よく手に馴染むそれは、エミのためだけに作られた特注品で、未来のエミも大事に使っていたんだと思う。それをなんとなくだが感じ取っているらしいエミも、持ち帰ってきたその銃を大切にしていた。






「そんな大事なモン、置いてってるわけ?」

「隊服もよ?わざわざ脱いだのかしら?」








少なくとも何者かが現れた時点で武器は構えるだろう。なんらかの理由で抵抗の意思がないことを示すために地面に置いた。もしくは、攻撃を受けた際に手からこぼれ落ちた。現場に真新しい血痕はなかったらしいが、いかんせんついこの間ファミリーが全滅した屋敷の中だ。いたるところに争いの跡があり、正直どの程度争ったのかさえわからない。連れ帰ってきた隊員の精神崩壊の具合からみても、エミが負傷はしていなくともなんらかの力に当てられ気を失っている間に連れ去られたと考えるのが妥当か。










俺たちはペアで事件の起こったファミリーのアジトを探ることにした。俺とベルフェゴールは、エミが実際に調査するはずだった屋敷にきていた。








「こりゃ相当暴れたなー。王子も昔を思い出すわー。」

「思い出に浸ってんじゃねーぞ、ぺーぺーがぁ!」

「でもさー、やっぱ変だよね。俺レベルの天才だったらひとりでも屋敷の人間皆殺しにするのは簡単だけどさ?これやったのモブらしーじゃん?ひとりで暴れたにしちゃ、狂いすぎじゃね?」







王子が言うのもなんだけど。そう、おちゃらけて見せたベルフェゴールだったが、言っていることは正論だった。やはり、ひとりでやったにしては部屋の中の有様はひどいものだった。壁や床に飛び散る血、家具やテーブルも引っ掻き回され原形をとどめていないものもある。





ただ殺すだけでは物足りず、あえて血が飛び散るようにいたぶって殺している。それほどまでにこのファミリーが憎かったのだろうか。




部屋の真ん中には床が焼け焦げている部分があった。そこが、この事件の犯人の最期の場所。











「エミさん、ヴァリアーの皆さんはどうやらあなたの帰りを待ち望んでいるようです。帰ってあげてはいかがでしょう?」







そこには暗い部屋の中、自身の膝を抱き縮こまるエミがいた。その姿はとても弱々しく見える。まるで両親の帰りを待ち望む小さな少女のようだった。




明かりもつけずに縮こまるエミは、唯一月明かりが差し込む窓のそばで丸まっていた。暗闇から逃れるように、その淡い月明かりにすがる思いで。






話しかける男の顔は暗闇の中でさえ不気味に浮かび上がるものだから、まるで亡霊のようだ、とエミは思った。








「………顔も、見たくない。」






心臓が軋む音がした。







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