一輪の華
あいた片手を君に


隊員だった男が灰になり、部屋の中は不吉な静けさが支配した。


男は去り際に「大切な人は誰か」そう尋ねた。


誰に向けた質問でもなければ、答える義理もないその質問だが、スクアーロは少なからず混乱していた。




思い浮かばなかったのだ。






スクアーロにとってザンザスは、忠誠を誓った絶対的な存在だ。だからと言ってレヴィのように崇拝することはないが、それでもこの男以上の奴は後にも先にも現れないと心から思えるし、これから先ついていくのもやはりこの男の後ろだけだと自信を持って宣言できる。






エミ?確かにエミのことは大切だ。しかしそれなら、ベルフェゴールだってマーモンだって、ルッスーリアやレヴィに至ってもどうでもいい奴らだがそれなりに大切だと思っていることに変わりはない。





日本で奴は確かにこういった。

「あなたの最も大切な方はこちらにいらしていないのですね」と。






あの男が言いたい俺の1番とやらは、ザンザスかエミか。そのどちらからしい。馬鹿馬鹿しい。





俺はザンザスに一生ついていくと誓いをたて、髪を伸ばし続けることにした。何もザンザスをボンゴレの10代目にするためについてきたわけじゃねぇ。俺のついていきたい男が、その座を欲しがったからついてきただけだ。その夢が叶わなかったこれからだって、俺はザンザスについていく。






そしてエミの側にいてやることはテュールとエリにそれぞれ誓った。テュールの命を奪った俺。そんな俺にあいつは娘を頼むと、そう告げた。それがあいつの最後のわがままで、無茶ばかり言いやがるあいつらしい最期の言葉だった。





エミから父親を奪った俺。




はたから見れば恨むべき相手だ。嫌われても文句は言えねえし、むしろ嫌ってくれた方が俺自身も楽だったと思う。出会ってから数年、エミに殺意や憎しみをぶつけられたことなど一度もない。それどころか、他の奴らと分け隔てなく接してくるエミは、よくできた女だと思う。

さすがは暗殺部隊の副隊長だ。

この仕事のことをよく理解している。

そして、剣に生きた父親と剣に生きる俺をよく理解してくれていると思う。だからこそ、エミは何も言わない。母親のエリがかつて俺にそうしたように。





エミとエリはそっくりだ。



見た目は正直似ていないように思う。髪の色もテュールの色を受け継いでいるし、何より雰囲気は穏やかだ。これはエリと仲のよかったルッスーリアもよく言う話だ。エリは喋り方も態度も性格も、男に引けを取らないくらいの男勝りな奴だった。それでも副隊長としての立場のわきまえ方をよく理解している奴で、旦那でありボスでもあるテュールを副隊長として、妻として、その両方の面で完璧にサポートしていたと思う。




しかし女としては、どうだろう。あいつは最後まで副隊長として生きた。テュールが最後まで剣士として生きたように。ヴァリアーのボスであり、妻と子供がいるひとりの男だとしても、テュールはやはり剣士だった。だからと言って、エリやエミのことを蔑ろにしていたわけではない。





エミは態度や喋り方こそ穏やかだが、性格はなかなか男勝りである。女だからとなめられるのが大嫌いで、人一倍の努力をするやつだ。副隊長として、ヴァリアーを大切に思う気持ちも大きい分、背負う責任も大きい。それを全部一人で背負おうとする。母であり、前副隊長であるエリがそうだったように。エミは、そのエリの娘でありその背中を見て育ってきたのだから、似るのもしょうがないことなのかもしれない。





そうだとしても、スクアーロはそんなエミの肩の荷を少しでも軽くしてやりたいと思ってしまうのだ。











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