一輪の華
残されたモノたち

「………と、言うわけだぁ!」

「はっ、くだらねぇ。それよりおまえらすぐ帰ってこい。」

「あ"ぁ!?シモンとかいうファミリーはどうすんだぁ!」

「ジジィが手出すなって言ったんだろ。ほっとけ。それより……エミが任務から帰らねぇ。」

「…………は?」












日本で起きたことの一部始終を報告する役目は、跳ね馬も交えた壮絶な戦い(じゃんけん)でスクアーロに決まった。いつもは我こそは!と名乗り出るレヴィも、この日ばかりは内容が内容なだけに遠慮を見せてじゃんけんで決めることになったのだ。





ザンザスが珍しくワンコールで電話に出たのを不思議に思いながらも、継承式がどこぞのガキどもに邪魔されて、ついでにリングも破壊されたうんぬんを雑に説明し終えたところで、興味もなさそうなザンザス。















「う"お"ぉい!どういうことっ……ちっ、切りやがった。」

「ボスなんだって?」

「よくわかんねーが、帰るぞ。」








どちらにせよ俺たちが日本に残ってすることはない。シモンファミリー討伐の任は、友達を救いに行くんだとなんとも甘っちょろい意気込みを唱えた沢田達に任された。その沢田達も先程、シモンファミリーの本拠地である島へと向かって旅立つ為に出ていった。






「ちょっとちょっと、スクアーロ!せっかく日本に来たのに観光もせずに帰るのん?」

「そーだぜ、寿司食ってこーぜ」

「仕方ねーだろ!早く帰ってこいって言うんだからよぉ!あのクソボスが!」







エミが帰ってこない。その知らせを受け、イタリアへと戻った俺たちの目の前には、ボッコボコにされた新人隊員が一人。







「う"お"ぉい、どういうことだぁ!?説明しろぉ!」

「詳しいことは知らねえ。Dランク任務にそこにいるカスと行ったっきり、姿が見えねぇ。」

「ししし、おまえ何か知ってんじゃねーの?吐かねーとサボテンにするぜ?」

「あ……あぁ、う……」







とてもじゃねーが、そいつは喋れる状態じゃなかった。目は虚ろで、あらぬ方向を向いており、壁を背にして力なく座ってはいるが、四肢に力が入っている様子はない。







「ボスさんよぉ、ここまでやんなくてもいいだろーが。こいつが唯一現場の目撃者なんだろ?」

「俺じゃねぇ。」

「ムム、何か強い力に当てられて精神崩壊してるね。……この全身の怪我はボスの仕業だけど、中身は違う何者かにやられてる。」







おいおい、それじゃあ現場で何が起こったのか、エミの居場所の手がかりになるようなものは何一つないって言うのかよ。






「現場にこれが残されていた。」

「エミの隊服と……銃?」








それはヴァリアーのエンブレムが刻まれた隊服と、未来から持ち帰ってきたというエミの愛銃だった。未来でも、この銃で戦っていたのを記憶としてみた。確か、10年後のあいつが使っていたものだ。






「ほかに手がかりはねぇのかぁ!?」

「ねぇ。」

「てめぇ……何故エミを行かせた!」













ザンザスに掴みかかるスクアーロ。

いつもボスであるザンザスにだって物言いは変わらないし態度だって変えないスクアーロだが、ザンザスの暴力にも抵抗しないし、ましてや反撃なんてしなかった。そんな彼が今、ザンザスの襟元を掴み上げて怒鳴り散らしているものだから、周りにいたものたちは一瞬、あっけにとられたのだった。






「お前がそばにいて、なんでこんなことになってんだぁ」

「…………ちっ」

「ちょ、まじでやベーって!カス鮫ふざけんな!」

「スクちゃん今すぐ謝るのよぉ!!」











ザンザスの右手が光り始めて、ようやくスクアーロを止めに入ったベルフェゴールとルッスーリアも驚いていた。スクアーロをザンザスの元から引きずって離す。





ザンザスは言い返さなかった。本人だって、イラついていた。俺がいながらなぜ止めなかったのだと。嫌な予感だけはしていた。それなのに引き止めることも、注意を促すこともせずそのまま行かせてしまったのだ。

行ってきますと出て行ったエミに、行ってこいと、早く帰ってこいと、言ってやることもしなかった自分が腹立たしい。










「仲間割れですか?」











部屋の空気を一瞬で張り詰めたものに変えたのは、先程まで大人しく座っているだけだった隊員だった。正確には、たぶんちがう。





相変わらず目は視点が合わず彷徨っているのに、声だけは妙にはっきりとしていて、それが喋らされているように感じた原因の一つだった。それぞれが、各々の武器を構えいつでも仕留められる状態のまま、急に話し出した隊員の男を見る。返事をしようとするものは誰一人としていなかった。






「いいですねぇ。もっともっと恨むといい。この私を。ねぇ、独立暗殺部隊ヴァリアーの皆さん」














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