一輪の華
こなごなになったプライド


各国から集まったマフィアたちが一堂に会し、今まさに新たなボスが誕生しようとしていた。







T世の時代より受け継がれてきたボンゴレのボスである証を、\世からX世へと継承する。それが、ボンゴレの継承。




多くの人間が見つめる中、開けられた小箱の中には小さな瓶が入っていた。赤黒い液体の入った瓶は、罪と呼ばれる代物で、代々継承式の当日のみ人目に晒される。人目に触れるのはその一瞬のみで、再びその姿を拝めるのは次のボスへと継承するときのみ。ボンゴレファミリーにとって、大切ななにか。







「受け継いでもらうよ。X世。」





9代目から沢田にその【罪】が受け継がれようとした時だった。







キィイィィィィ!!






「なんだ!?」

「耳がぁ!!」






耳鳴りに近いそれは、とても耳障りで思わず耳を塞ぐほどだった。合わせて、爆発音と煙幕が会場を埋め尽くした。






聴力も視力も使い物にならないこの状況であっても、守護者のやるべきことはひとつ。9代目の守護者達はボスと沢田、そして罪を守るべく立ち塞がる。






「9代目は守護者に任せて大丈夫そうだなぁ!!」

「急にどーしちゃったわけ?」

「敵が紛れ込んでたみたいねん!」






紛れ込んでるといっても、ここにいるのは全員がマフィアだ。堅気のやつなんかひとりもいやしねぇ。ここにいる誰もが、犯人である可能性がある。そういう世界だ。




俺は無意識にあの不気味な男を探していた。青白い顔に抑揚のない喋り方、貼り付けたような笑み。あの無機質な男。存在自体が不気味であり、怪しい奴だった。






「大丈夫ですか9代目!」

「なぁに、この程度かすり傷じゃよ。建物を完全封鎖せよ!何人も逃すな!」

「封鎖完了しました。」

「犯人の割り出しには5分とかからないでしょう。すべて作戦通りです。」








9代目達は初めから何か起こることを知っていた。それが罪の破壊だという予測も立っていたようだ。継承式の主役である沢田には伝えられていなかったようだがな。

「犯人は必ず捕まえるよ。山本君をあんな目に合わせてしまったのはわしの責任じゃからな。」

「9代目…」








やはり山本はやられたらしい。

それもこの騒動の犯人とやらに。







「た…大変です!!金庫が破られています!」

「なに!?」

「そんな!!」







9代目とその守護者達の炎のシールドで守られていたという金庫は、簡単に破れるようなものではないはずだ。



金庫の奥から出てきたのは沢田たちと同世代のガキども。どこかの中学の制服を着込んだガキどもは、沢田たちに引けを取らないくらいこの場が似合わない奴らだった。




シモンファミリーと名乗るガキどもは、初代ボンゴレに裏切られマフィア界から姿を消した。蔑まれ、身を隠すように今まで生きてきたのだという。



奴らの扱う炎は、ボンゴレのそれとはまったく違った。



見たことも、感じたこともない炎。





奴らはそれを大地の七属性と呼ぶ。


俺たちの持つ大空の七属性とは対になる属性。






沢田達が手も足も出ずやられていく。まるで大人が子供の手を捻るようだ。



守護者の四人は叩きつけられ動かない。幻覚でできた山本も消えた。沢田ですら天井に押し付けられ動くことすらできずにいた。






「ツナ!」

「う"お"ぉい!そこまでだぁ!」

「外野は引っ込んでろ」






俺たちの周りを氷の刃が囲む。暗殺部隊とキャバッローネのボスが情けねえ話だが、誰一人として身動きのとれる者はいなかった。喉元に鋭く伸びるそれ。マーモンはフードが串刺しにされてやがるし、ベルの王冠は吹き飛んだ。手も足も出させねえつもりだ。






「今日この日がボンゴレ終焉のはじまり。そして新生シモンの門出だ。」












シモンファミリーとやらは去ったが、沢田達はボロボロの状態だった。おまけにボンゴレの至宝、ボンゴレリングはひとつ残らず粉々に砕け散った。それはまるであいつらのプライドのよう。




「恭弥!大丈夫か!?」

「寄らないで。平気だよ。プライド以外は。」

「……エンマ…手も足も…出なかった。」






雲雀だけじゃねぇ。少なくとも全員が、ショックと屈辱を味わったのだろう。未来を戦い抜き、自他共に認める強さを手に入れたガキどもの前に、自分と同い年のガキが立ちふさがった。そして手も足も出すことができないまま、簡単に捻り潰され、仲間を目の前で連れ去られた。未来で掴み取った確かな自信は今、ここでリングと共に砕け散った。








「尾行をしていたコヨーテ・ヌガーがシモンに感づかれ…返り討ちにあいました」

「なに…!コヨーテが……」

「9代目…」

「う"お"ぉい!シモンファミリー討伐の任は我らヴァリアーが引き継ぐ。許可していただきたい9代目」

「ならん」

「んだとジジィ!!」

「わかってくれスクアーロ君。これ以上無駄な犠牲者は出せない」

「犠牲者だぁ?俺たちが負けるとでも言いてえのかぁ!てめーの守護者とはデキがちげえんだぁ!」









9代目のジジイは断固として後を追うことを許さなかった。ジジイの言うことはもっともだ。今、この場でリングに炎を灯しながら戦うことができるのは、未来に行った沢田達だけだ。


その沢田達が手も足も出ねえ相手に、リングを持たない俺たちが太刀打ちできるとも思っちゃいねえ。しかし、ここで誰かが追わなきゃボンゴレの名は汚されて終わりだ。そうなりゃ、あいつが黙ってねぇ。ただでさえ、継承式だのなんだのと騒ぎまくる上の連中を噛み殺しそうな目で見てたってのに、それがガキどもに邪魔されておじゃんになったどころか、命をかけて奪い合ったあのリングが、まさか粉々になろうとは。あいつが、ザンザスが知ったらこの世の終わりだ。







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