Short story

例えば君に届くなら



「ごめーん、待った?」
「待ったわ!!!」
「…そこは、俺も今きたとこだぜって言うところでしょ?」
「は??」


 セミが鳴きわめくある夏の日。駅前の時計台の下で待ち合わせをしたわたし達は、恋人らしい会話を一つもしないまま歩きはじめた。それもそのはず、わたし達は別に恋人でもなんでもないの。
 この夏休みの間、みんなで海にいったりお祭りにいったりした。ツナのおうちにお邪魔して宿題をやった日もあった。みんなで進める宿題は家でひとりでやるのと比べると亀の歩みように遅いのに、なんだか面白くって、忘れたくなくて、大切だった。
 ただのクラスメイトのわたし達が学校のない夏休み中に会えるのだとしたら、何かしらのイベントがなければならなかった。何もないのに、会いたいという理由だけで会えるのは、友達同士じゃ無理なのだ。

 今日のイベント、それはかき氷。

 最近できた天然氷を使用したかき氷屋さんは、ふわふわでカラフルな見た目がとてもかわいいと話題だった。「氷にシロップかけたモンの何が旨いんだ」と、かき氷を馬鹿にした獄寺をなんとか説き伏せて連れてきた。


「………美味え」
「でしょ? キーンってしないでしょ? お祭りのかき氷とはレベルが違うんだよ!」


 日本にきてからかき氷というものを知った獄寺は、お祭りで売ってるジャリジャリのかき氷しか知らない。今日、新しくふわふわのかき氷の存在を知った獄寺。それを教えてあげたのはわたし。これから先、かき氷を思い出した時に、一緒にわたしのことも思い出してくれたらいいのに。夏がきて、茹だるような暑さの中で涼しさを求めたときにかき氷と一緒にわたしを思い出してほしいの。


「今まで食べたかき氷で一番美味しいでしょ?」
「…まぁな」


 少しずつ溶け出した氷がお皿から垂れてしまわないようにスプーンを使いながら必死になって食べる獄寺がかわいい。
 わたし、知ってるの。きっと獄寺のかき氷は、日本にきてツナ達となかよくなって初めて行ったお祭りのかき氷。ジャリジャリの氷と甘い甘いシロップをかけたもの。獄寺にとっては味や見た目なんてどうでもいいのだろう。
 どうしたって、みんなとの思い出にわたしとの思い出は敵わない。


「もうお祭りも花火も終わっちゃって、夏も終わりって感じだね」
「十分遊んだじゃねぇかよ」
「そうだけど…」


 そうだけど、そうじゃない。
 夏休みが終わってしまったら、学校で毎日会える。でもそれじゃただのクラスメイトと何も変わらない。浴衣を着て屋台の間を練り歩くこともない。夜空に輝く花火を一緒に見上げることもない。帰り道に、暗いからと少しだけ遠回りをしてわたしの家まで送ってくれることもなくなってしまうの。
 クラスメイトは知らない獄寺をたくさんみれる夏休みが終わってしまうのがたまらなく寂しい。


「おい溶けるぞ」
「うん」


 わたしみたい。着飾って今日こそはと気合を入れて獄寺の前に出てきたのに、何もできなくて。すぎてゆく季節に勝手に悲しくなって、溶けて消えてゆく。





「今日はありがとう」
「…んだよ、きもちわりーな」
「わたしだってお礼くらい言えるし」


 感謝を伝えただけで気持ち悪がられるわたしが、好意を伝えたら獄寺はどんな顔をするだろうか。同じように気持ち悪がられるのかな。冗談だろ? って笑われるかも。
 あぁ、夏が終わってしまう。
 海もプールもお祭りも、全部全部楽しかった。全部終わっちゃった。かき氷も食べにいった。もう夏らしいことが思いつかないの。誘い文句がないのだ。


「夏が終わっちゃったね」
「お前そんなに夏好きだったか?」
「好きだった。とっても。」


 獄寺を独り占めできる気がしてすきだったよ。

 わたしなりにがんばれたのは、きっと『夏のせい』。



復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負 様より
お題:夏のせい
お借りいたしました。



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