Short story

やさしい水色の向こう側

 突然ですが、あなたには大切な人がいますか?家族でも恋人でも友達でも、尊敬する人でも構いません。その人たちを救うために、あなたがすべきことがあると伝えてきた人がいるとします。よく知る人物のはずなのに、おもかげはあるのに、それでもやっぱりどこか違う。そんな人が突然目の前に現れたらあなたはその人の言うことを信じますか?


◇◆◇


「信じて、もらえなくても仕方がありません。しかし計画はすでに動き出している。どうか拙者の──この、バジリコンに免じて、引き受けてはくださらないだろうか」

「そ、そんなこと急に言われても!なにがなんだか…わたし…」


 目の前で腰を直角に折り曲げているのはCEDEFという組織に拾われたわたしの同僚、バジル。…の、10年後の姿をした人。ボンゴレファミリーの守護者に10年バズーカという武器で未来の自分と入れ替わる人がいるのは聞いた。目の前に、大人になったバジルがいた。
 バジルは黒のスーツに身を包み、わたしの前に現れた。親方様達のようだ。恐らく彼はまだCEDEFの一員である。そんな彼からの"指令"。親方様にも、この時代のバジルにも明かしてはならない極秘任務。正直、わたしはたまたま親方様に拾われて身寄りもないので置いてもらうところから始まったど素人。この先バジルのように任務が下されることもないかもしれない。そんなわたしに大人バジルは頼みごとがあるという。


「○月○日、この時代の拙者をこの10年バズーカで未来へ飛ばしてほしい」


 なんの、冗談かと思った。約10年先の未来のボンゴレは新勢力によって壊滅状態となる。それを救うために過去から10代目ファミリーを呼び寄せる計画を立てたのは、なんと10代目沢田綱吉本人であった。ついこの間までバジルはCEDEFとしてボンゴレリングをめぐる戦いのサポートをしていて、やっとイタリアに帰ってきたばかりだというのに。


「今度は未来?いくらバジル本人からのお願いだとしても、わたしはそんな危険な場所に何も知らないバジルを放り込むような真似できない。親方様にも言えないような任務、CEDEFとして尚更承諾することはできないわ」


 どうして、どうしてこの世界のバジルなのだろう。ボンゴレリングも持たない、守護者でもなんでもないバジルが、何故未来の戦いに巻き込まれなければいけないの?未来でもしも何かあったら、この時代のバジルは、この時代に亡骸でさえ帰ってくることができないのに?


「仰ることはごもっともです。しかし親方様はこうも言いませんでしたか?ボンゴレの非常時において、門外顧問は実質No.2の地位だと…」


 雷が落ちたような衝撃が身体中を駆け巡った。
 バジルは人助けでこんなことを頼みにきているわけじゃなかった。そして、馬鹿馬鹿しいと感じるこんな計画しか、もう残されていないのだろう。バジルも沢田綱吉も、苦渋の決断だったのだ。
 もう、これしかないのだ。


「…、意地悪ね、バジル」
「…すみません。こんなこと#名前#にしか頼めない。僕の相棒」


 わたしは未来で、バジルの相棒として役に立てているのかしら。きっとこの計画は未来のわたしには知らされることはない。そしてわたしが未来へと向かうこともない。何も知らずに、バジルの帰りを待ち続ける未来のわたし。全て知っていながら、何も知らないバジルを危険へと送るわたし。いってらっしゃいも言えないなんて、初めての任務にしては荷が重い。


「わかったわ。その任務、承ります」
「ありがとう──ありがとう…!」
「必ず、わたしのバジルを返してね」
「ええ、必ず。今度は平和な未来で逢いましょう」
「バジルと二人、同じペースでそこに行くわ」


 両手で握手を求めてきたバジルが霞んできた。そろそろ未来へ帰るのだろう。ふわり、抱きしめられた温もりが今と変わらず温かいままだったものだから思わず涙がこぼれ落ちた。


「僕の帰りを待っていて」


──未来で、逢おう──


2020.07.23 HBD




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