Short story

グッドエンドの逆算

俺の名前は沢田綱吉。中学までのあだ名はダメツナ。ダメダメだった俺はイタリアから来た家庭教師と友達のおかげで少しずつダメダメを克服…できていなかった。

相変わらず勉強は分からないことの方が多いしスポーツのセンスもない。ニンゲンという生き物はそう簡単には変わらない。変わったことといえば友達ができたこと。補習仲間の山本と必死になって勉強するようになった。それを面倒見てくれる獄寺くん。二人のおかげで賑やかな毎日を手に入れた。つまらなくてすぐ放り出してきた学校生活がいつからか楽しいものに変わっていった。少しだけ、ダメツナから成長できたと思う。


「よっツナ!」

「おは…!? お、おはよう山本!…と小林さん!?」

「おはよう沢田くん」


学校を楽しいと思えるようになったからと言ったって朝が得意になったわけではない。登校が面倒臭いと思うのも仕方がない。通学路のコンクリートを見つめながら歩いていた俺は、後ろから声をかけてきた山本とその隣に並ぶクラスメイトから目が離せずにいた。

山本の声でようやく顔を上げた俺の視線は山本を通り過ぎて、隣の女の子を捉えたまま止まる。朝イチの小林さんは刺激が強かった。何を隠そうこの俺は、小林さんのことが、その…好きなんだ。

スクールバックの持ち手を握る白くて小さな握りこぶしが可愛いとか、今日は少し肌寒いからニットのベストを着てるんだとか、髪の毛はおろしているんだとか。一瞬の隙を見て観察するのは得意なのにまともな挨拶ひとつできやしなかった。って待てよ。小林さんに「おはよう」って言ってもらったのははじめてだ。うわぁー、録音したい! 小林さんは俺のこと沢田くんって呼んでるんだ。そんなことも知らないくらい、俺と小林さんはただのクラスメイトだった。


「そこで会ったんだ! な、小林!」

「うん。山本ってば急に肩掴んでくるんだもんびっくりしたよ。」

「わりわり! イヤホンしてたから。」


俺はイヤホンをしている人に声はかけられない。たぶんね。それが小林さんならば尚更だし、イヤホンをしていなかったとしても挨拶をしたり一緒に登校をしたりなんて夢のまた夢。山本はやっぱりすごいや。
二人はなんの音楽を聴いていたかとか、好きなアーティストは誰だとか、ナチュラルに会話を弾ませながら学校へと足を向かわせる。後ろからやってきたはずの二人が俺の隣に並んで、少しずつ前へとズレていく。いつのまにか二人は俺の前を歩いていた。背の高い山本とその肩あたりで揺れる小林さんの頭。
同じ歩幅で進んでいく二人からこぼれ落ちるように遅れていく自分の足元を見つめる。さっきまでと同じように、またコンクリートを見つめながら学校へ向かう。「はぁ」と溜息が出てしまいそうになるのを飲みこんだ。


「あ! 沢田くん」


小林さんの口から俺の名前が飛び出るのは二度目。弾かれるように上げた顔。「宿題、やってきた?」悪戯を思いついた子供のような顔で振り返った小林さんと顔を引きつらせながらスクールバッグをガサゴソと漁っている山本。山本はどうやら忘れたらしい。
ダメツナだからと諦めるのは簡単だけど、ダメツナなりにやれることはあるはずだ。


「どっちだと思う? 小林さん。」

「え〜!? そんな風に言うんだからやってきてるんでしょ?」

「あ! ツナずりぃー!」


クスクスと笑う小林さんの隣に並ぶ。彼女を挟んだ向こう側で山本が悲痛な叫び声を上げているのを聞きながら俺は笑った。
三人の歩幅はてんでバラバラなのに、上手いこと足並み揃えて登校する。朝の憂鬱な登校時間が薔薇色に変わった瞬間だった。



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