Short story

遠いあなたに告げること

過去から小さな小さなあの人がやってきた。

まだ随分と尖っていて周りは愚か自分の事さえ顧みることのできないお子ちゃまなあの人。

自分の命に重さがあることを知らないまま、自分という存在の必要性を知らなかったあの頃の獄寺隼人。


それが仕方のなかったことだなんて私は認めない。それを教えてくれる人がいなかったんだと、それじゃあ仕方ないねなんて私は言ってやらない。
私はあの人に初めて会ったその日から彼の心配をしていた一人だから。あの人が10代目しか眼中になくて、10代目の為ならこの命捨てても構わないなどと馬鹿なことを思っていたその瞬間ですら、貴方自身のことを一番に心配していたのだから。







中学校時代の保健委員としての活動が影響し将来看護師として働くことになるのだから人生というのは面白いものだなと思う。保健委員になっていなければ、看護師になることもなく、怪我ばかりする人の身を案じて心を痛めることもなかったかもしれない。
でもそれ以上に、こんなに私の心を占領する人に出会うこともなかったのかと思うと、それもまた運命だったのかなぁなんて乙女チックな思考に笑えてくる。


生まれ育った並盛の総合病院に勤務する傍ら、彼の過ごす基地の訪問看護師として定期的に健康管理や修行、任務で増やされた傷の手当てを行なっている。昔から何一つ変わらないやり取りの中に安心感を覚えながら、素直に手当てを受ける彼の顔を盗み見て丸くなったものだと微笑むのが好きだった。


「あ!あの!獄寺くんと山本が!γに!」

「落ち着いて綱吉くん。順番に処置するからね。」

「よろしく、お願いします。」


過去からきた彼らがどんどん傷ついていくのを見て心が痛まないわけがない。だけど私は昔も今もその傷を手当てしてあげることしかできないから。動揺する綱吉くんの背中を押して治療室からそっと追い出す。ここから先は、いつもは役に立たない私の戦場。いくらあの10代目だとしてもここは邪魔させないわよ。

あの人の唯一の存在『10代目』

綱吉くんに会った日のことは忘れない。また無茶をしてボロボロになったあの人を小さな体で担いで保健室までやってきた。あの時も綱吉くんはどうしようどうしようとあたふたしてた。その時の私は、なんだちゃんと心配してくれる人がいるんじゃないかと安心と寂しさが同時に押し寄せてきた。


「…γ!!」

「………開口一番がそれ?もっと他にないの?」

「おまえ…なんでここに」


この頃の彼は怪我をするくせに手当てをされるのは気に食わないようだった。きっと無様な自分が不甲斐なくて、弱い自分が情けないのだろう。そうやって傷を隠して一人きりで先に進もうとする彼に腹を立てて何度も何度も喧嘩をしたのが懐かしい。

小さな彼がいるということはあの人は今ここにはいないということになる。いつ戻ってきてくれるんだろう。
でも今も獄寺隼人はここにいる。今はこのまだだいぶ尖っている彼のことを精一杯心配してやろうじゃないか。


敵のアジトの場所が分かり、過去からきた綱吉くんたちは過去の世界に帰るために敵地へと乗り込むことを決めた。そうする他選択肢がないことは分かっている。しかしまだこんなに小さいのにその背中に全てを託すことしかできない自分が情けなく思う。


「明日の朝出発する。」

「いってらっしゃい。私ももうここは危ないから避難するわ。」

「…次にお前に会う俺は未来の俺だ。俺も過去にいるお前に会いにいく約束が守れてねぇままだからな。」

「あぁ〜あの時かぁ。私めちゃくちゃ怒ってたな〜」

「な、マジかよ!」

「普通怒るでしょ。どんだけ待たせるつもりだっつーの。」


そう伝えれば見てわかるように蒼ざめた。いけないいけない。反応が若くてついからかってしまった。若いってそれだけで可愛いね。でも当時の私が怒っていたのも本当だし、それ以上に心配して不安だったのも本当だからこれくらいの意地悪は許してほしい。







「隼人!」

「おぉ」

「おぉ。じゃないわよ!まったくもう!みんな怪我してないわね!?あ!雲雀くんと笹川くん怪我してるじゃない!こっちきなさい!」

「俺は自分で…」

「自分でって炎ででしょ!?私それ信用してないから!ダメ!」


この時代の、みんなが戻ってきた。
私が待っていたあの人は怪我をすることなく無事に帰ってきてくれた。


「おいななしまずは俺の心配しろよ。」

「あとでね。怪我人が最優先よ。」

「ななしさん俺も診てくれよ!」

「武くんは相変わらず元気です!問題なし!邪魔しないで!」

「ひでー」


無事に過去に帰った小さな獄寺くんは怪我をしていないだろうか。していないわけがないか。でも過去の彼は過去の私が手当てをしてあげればいい。

同じ道を同じように歩くことはできなかったけれど、それぞれの歩幅でそれぞれの道を歩んで、今こうして一緒にいることができる。強くなっていく彼がいつでも安心して帰ってこれる場所でいるために、私も私なりのやり方で強くなった10年間だった。


「あ、忘れてた。隼人〜?」

「…んだよ。」

「おかえり!」

「………ただいま。」







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