Short story

正しい首輪の付け方を教えよう



「え!ななし彼氏〜!?」

「そんなんいないけど?」

「だってネクタイ!」

「あーこれ?お兄ちゃんに借りちゃった〜」

「なーんだーびっくりして損した」


うちの学校は男子はネクタイ、女子はリボン、風紀委員会所属の人は学ラン。
それがまぁ普通だしどの学校もだいたいこんな感じなんだけど、女子の間では彼氏ができるとクールビズで男子のネクタイ着用が強制ではない夏の間だけ彼氏にネクタイを借りて、ネクタイ生活を楽しむなんていう風習があったりする。

卒業してしまう憧れの先輩から、ネクタイをもらう女子もいるくらいだ。
第二ボタンをもらうより、その後活用できるという点で優れているかもしれない。

なんにせよ、この学校で男子のネクタイをつけている女子というのは『彼氏持ちである』と主張しているようなものだった。


「紛らわしいことしないでよ〜」

「だってネクタイしてみたかったんだもん」

「憧れるけどさー?風紀委員長にバレたら没収らしいよ?」

「え、マジ!?」


風紀委員長の雲雀恭弥先輩を初めてみたのは入学式。
学ランと『風紀』の腕章が春の温かい風に揺れる姿がとても綺麗だなって思ったんだ。

お兄ちゃんに綺麗な人がいたよーなんて報告をしたら、「あの人はマジで怖い人だから絶対近付いたら駄目だし、目をつけられるようなこともするな絶対だぞ。咬み殺されるんだからな。」と再三注意をされた。


風紀委員が取り締まるのは不良だったり、過度に騒がしい人達だったりで、私みたいな普通の生徒が普通に生活をしていれば関わることはほぼないし、特に注意をされるようなこともなく、あの綺麗な先輩とはほとんど顔を合わせることのない平和な学校生活を送ってる。


いや、送って、いた。


「ちょっと、そこの女子生徒」

「!?はいっ!」


ギョッとして振り返った先に、雲雀先輩がいた。こっちを向いて腕を組んでいる。
やっぱり綺麗な人だな、なんて思ったけど、その綺麗なお顔は不機嫌そうにこちらを見ている。

やばい、咬み殺される。

そう思った瞬間「逃げて!」と友達の背を押して、ヒーローよろしく両手を広げて廊下のこの先へ行けないようにした。


「ふぅん」

「用があるのは私ですよね」

「分かっててやってるならそれなりの覚悟はできてるんだろうね?」


綺麗な人だと思ったはずなんだけど、その外見も今は凶暴な肉食動物に見えるくらい、私の雲雀先輩へのイメージは覆されてしまった。

じりじりと詰め寄ってくる雲雀先輩に合わせて、じりじりと後退していく私。
お兄ちゃんの話ではトンファーっていう金属の武器で殴り殺されるって聞いている。今の所、雲雀先輩の両手には何もない。


「なんでネクタイしてるの」

「なんでって…」

「他人に見せびらかして楽しい?」

「あっ…!」


ネクタイを掴まれて後ろに下がる足が止まった。
思いの外至近距離まで迫っていた雲雀先輩の顔は、やっぱり怖くてやっぱり綺麗だった。
好きな人とは目が合わせられないなんてよく聞く話だけど、イケメンに限っては例外みたい。逆に穴が開くほど見つめてしまえるものなのだと思った。
美人は3日で飽きる?ないないない。24時間365日観察したって飽きそうにないよ。


「目、逸らさないんだ」

「逸らしたら咬みつきそうですもん…」

「…どこの誰のモノだか知らないけど、僕に捕まって逃げられるなんて思わないことだね」


しゅるり、と解かれたネクタイはあんなに魅力的なものだったはずなのに、今はそんなのどうだっていいくらい視界いっぱい、心の中までも雲雀先輩で埋め尽くされそう。


「っ、や」

「咬みついて欲しかったんでしょ」

「な、なっ、何して…!」

「首輪の付け方なら、ソレ以外にもたくさんあるよ」


訂正、風紀委員長の雲雀恭弥先輩は、初めて会った女子生徒の首筋に咬みつくような変態で、怖い人で、笑った顔がちょっとだけ可愛い……いや!騙されないぞ!このエロ大魔神が!


ー後日ー


「この度はうちの妹が俺のネクタイを持ち出したことで風紀を乱したとのことで、誠に申し訳御座いませんでしたああああ!」

「何あれ」

「兄です。ネクタイの持ち主です」

「ふぅん、今日はリボンなんだ」

「もうネクタイは懲り懲りです。2度としません」

「首が寂しくなったらいつでもおいでよ。咬み殺してあげる」

「いっ、いいです!!雲雀先輩のえっち!!!」


終わり


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