Short story

群青の君へ



「どうしてぼくのかみのけは、ぎん色じゃないの?」

「どうしたぁ?急に」

「ぼくのかみのけは青いからね、けんていの子はぎん色なんだって。お姉ちゃんはぎん色なのに、ぼくはパパの子じゃないの?」


可愛い息子の質問はなんとも答えづらいものだった。

別に本当に血が繋がっていないとかそんなことがあるはずもなく、こいつは正真正銘、2代目剣帝であるこの俺、スペルビ・スクアーロと初代剣帝の一人娘であるエミとの間に生まれた子だ。

髪の色については生まれるまで分からなかったって言うのが本音だ。


1人目の長女は、俺にそっくりの銀の色。
ただ髪質はエミに似て柔らかさがある。最近は女の子らしくすることに興味を覚えたようで、かつてのエミのように髪を伸ばしている。やはり毛先が少し遊ぶようで毎日毎日丁寧に梳かしたり、ルッスーリアやベルフェゴールに結んでもらって遊んでいる。

2人目に生まれた長男の色は、群青。

俺達はその色を見るたびに喧しい男を思い出すが、少しのんびり屋さんで気の優しい男の子だからあいつの面影はほとんどない。いや、良かったぜ本当に。


エミの髪色は黒だ。エリの色が勝ったのか日本人特有の黒さの中にテュールの群青が混ざり、独特の色合いとなっている。俺はそんなエミの柔らかい髪を掬い取って弄ぶのが好きだった。

今はもう、短くしてしまって伸ばす気はないらしい。少し残念だが、代わりに娘の髪の毛を掬い取ってキスを落とす。


隔世遺伝ってやつなんだろう。

テュールにそっくりの髪を持って生まれてきたこいつに、お爺ちゃんと一緒なんだと説明をしたところで、祖父母の存在など知らないこいつに納得してもらえるのかどうか。


どうしたものか、言葉に詰まった俺をみてとうとう涙目になってきた息子。
慌てて脇に両手を差し込み抱き上げた。


「う"ぉおおい!エミ!エミはいるか!?」

「怪我でもさせたか?エミに殺されんぜー先輩」

「ママはそんなことしないわよ!ベル!」

「いーやエミは怒るとこえーんだぜ?」


談話室にエミの姿はなかった。

ベルフェゴールの膝の上が定位置と化している我が娘には、そろそろそいつの危険性を教えなければいけないな。


姉の銀色の髪を見て、とうとう我慢していた涙が溢れた。
ガキはびぃーびぃーと泣くものだと勝手に思っていた部分があったが、こいつは声をあげて泣くことは少なくて、天真爛漫な姉に比べてとても大人しい子供だった。
よく言えば手のかからない子供。

だが、そんな風にしてしまったのはもしかしたら俺たち親の責任なのかもしれない。


「何してる」

「う"ぉっ!」

「あ!ザンザスさーん!」


ひょっこりと姿を現したザンザスは、俺の腕の中で静かに泣く息子を見て、ギロリと俺を睨みつける。
「何しやがったてめえ」その目はこう言ってるに違いない。だから俺は何にもしてねえし、悪いのはテュールのせいだ!群青色の頭しやがって!


事の経緯を説明すると無言で部屋を出ていき、数分後一冊のアルバムらしき物を手に戻ってきた。
埃まみれのそれは随分と長い間開かれることはなく、眠っていたに違いない。


その頃にはもう泣き止んでいた息子を俺からぶんどって、膝の上に乗せたザンザスはゆっくりとアルバムを開いてみせた。


「お前の色はこいつの色だ」

「この人がぼくのほんとのパパ?」

「う"ぉおおい!ちゃんと訂正しろよ!?」


ブハッと笑ったザンザスは久しぶりに見た。


「あー!ザンザスさんのお膝ずるーい!」

「おまえは王子の膝よりボスがいいわけ?」

「うん!ザンザスさん滅多にしてくれないもん」

「王子はいつでもしてやるのに?」

「ベルちゃん、女の子はそういうものよ?」

「カスザメ先輩サボテンけってーい」


ベルの膝から飛び降りてザンザスの開くアルバムまで駆け寄っていく娘。ベルの奴ざまぁみろ。


「そいつは初代剣帝で、エミの父親だぁ」

「おまえらのじいちゃんってことな」

「おじいちゃん…ぼくとおんなじ色だ」

「おまえはちゃんと俺とエミの息子で、剣帝の孫でもある。おまえの髪の毛は、群青色って言うんだぜぇ」


柔らかい群青色の髪の毛をかき混ぜる。

写真の中のテュールは、相変わらず賑やかなツラをしているし、ザンザスがそんな写真の存在を覚えていたってことにも驚くが。


「ほわぁ…!」


写真を見て目をキラキラとさせている息子には、まだ剣も持たせていない。
持たなくてもいいと思ってる。
ここで育った以上一般人として生活していくには不便があるが、こいつらがそれを望むなら出来る限り手を尽くそうと思ってる。

もし、こいつが剣を持ちたいと思ってくれたなら。

俺は、かつての師匠がそうであったように、俺を殺してくれるような剣士に育ててえと思う。


「あら、みんなして何見てるの?」

「ママー!見て!おじいちゃん!」

「わぁ、そんな写真まだ残ってたんだ」


見せて見せてー!とザンザスのそばに駆け寄っていくエミも子供のような無邪気な顔をしている。
子供らしくない子供だったと、子供時代を語ったことがあったが、本来ならこうやってテュールやエリと家族団欒を楽しみたかったに違いない。

子供達に寂しい想いはさせないように。

それがエミの育児のモットーだった。


「なースクアーロ?」

「なんだよ」

「あれぞ本物の家族って感じしね?」

「…………!う"ぉおおい!ザンザスそこ代われぇ!!!!!!」





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