Short story

an Happy Marriage

「もうお前帰っていーよ。」

「べ、ベル様!?」

「気が変わった。さっさと帰って、雨だしだりい」


目に涙を浮かべて部屋を出ていった女の名前は知らない。あれは確かスクアーロの隊の奴だったかな〜。ゆるっと巻かれたロングヘアーが目に止まって声をかけたらのこのこついてくるもんだから、テキトーな部屋に連れ込んで美味しくいただこうと思った。


入った部屋は何用に作ったのかよくわかんねー部屋で、使われてないけど一応ソファーや書斎はあるし、本棚には本も並べられている。ホコリひとつないその部屋は毎日使用人が掃除してんだろーけど、使われてないのにご苦労なこったなって感じ。

グレーな空からはいつの間にか雨粒が落ちていた。しとしとと音もなく静かに降る雨は嫌いだ。連れ込んだのはいいものの、窓から見えたのがこんなんだから萎えたってわけ。

今は6月。イタリアの雨季はだいたい11月頃でそれもほとんどがスコールだからこういう風にしとしとと静かに降る雨は珍しい。こんな雨は日本の梅雨とかいうのに似てる。じめじめと降り続ける雨なんか見てたら気が滅入りそうだ。テンション、コンディション全てにおいて低空飛行になるのはしょうがないと思う。
降るならもっと嵐みたいに騒がしく降りゃあいいのに。窓を揺らして叩きつけるように激しく騒がしく。


「やっぱりベルか。」

「んだよ。…スクアーロかもしんねーだろ」

「スクアーロは自分の隊の子には手出さない主義らしいよ」


あぁ、確かにあいつ身近な女には手出さねーな。後が面倒くさいとか仕事に支障が出るとかなんとかで。そういう真面目なのか真面目じゃないのかわかんないところが、オンナゴゴロ?ってやつをくすぐるわけ?あいつも大抵、頭ん中はクソみてえなことしか考えてねーよ。

ソファーに寝転がる俺の足を片方無理やり折り曲げてまで座ってきやがったこの女は、雲の隊の隊長してる日本人。小柄で漆黒の髪を肩あたりで切り揃えてる。何もかもがイタリアの女とは真逆だ。日本人は艶やかな黒髪を綺麗にまとめあげて、シンプルな着物に身を包み男の三歩後ろを静かに歩いてればいい。ななしはそんな俺の日本人のイメージとも真逆だった。


この部屋から女が出ていくのを見かけて、ノックもせずに入ってくるような女だ。お節介な女。


「用がないなら出てけよ。ひとりになりてーの。見てわかんない?」

「明日は奇跡的に晴れ間が出るらしいよ!」

「聞いてねーよ。静かにしろ。」

「ルッスが振られた話聞いた?しかも相手がさ、マッチョじゃないのよ。あれは結構本気だったね。」


静かにしろって言ったって聞きやしねーし、第一ひとりでベラベラ喋る内容がオカマの失恋の話っておかしいだろ。聞いてなんの得になんだよ。明日いじってやろっと。
何1つ噛み合わない会話が静かな部屋に木霊する。それでも話すことをやめないななしは俺が相槌を打ってやらなくたって勝手にペラペラと喋り続ける。


「おまえさてはひとりになりたくねーんだろ?」

「よくわかったねぇ。えらいえらい。」

「馬鹿にすんじゃねーよ。」


折り曲げられた右足は曲げてんのもだりぃからななしの太ももの上に乗せてある。頭でも撫でるかのように膝小僧を撫でられた。全然嬉しくねぇ。
ななしは素直な女だ。感情が顔や態度に正直に出るし、思ったこと感じたことは結構そのまま口に出す。日本人らしくないその態度がここの奴らには大層気に入られた。


「マリッジブルーってやつ?似合わなすぎじゃね?」

「そんなんじゃないよ。」

「いい加減出てってくんね?王子昼寝すっから。」

「じゃあ、ベルが眠れるまでここにいるよ。」

「おまえがいたら寝れねぇだろ、消えろ。」


明日こいつは嫁に行く。嫁に行くって言ってもヴァリアーは続けるし表向き何かが変わるわけじゃない。それでもこうやって俺とふたりでいることはなくなんじゃねーかな。別に怒られはしないだろうし、そういうことをこいつが気にすることはない。だから今まで通りに接してくるに違いない。ただ、俺の方が今まで通りではいられない。ななしにとっての俺は昔も今もこれからも変わることはないんだろうけど、俺の中のななしは昔とは違う。そして明日また変わる。


「おまえみたいなクソ女がボスと釣り合うわけねーだろ」

「ほんとだよね。わたしも心配。」

「ま、泣かされたら胸貸してやるよ」


明日、このクソ女はボスのモノになる。


「よろしく頼むわ。ベルも雨の日に泣きたくなったら胸貸してあげるね。」

「偉くなったもんだな、クソ女」


笑ったななしは、俺の知ってるガキ臭い女じゃなかった。知らない間に大人になってボスと恋して大人の女に変わっていった。

あの日と同じ、しとしと降る雨が嫌いなガキみてえな俺を置いていく。


今日は雨のせいでもなんでもない。

おまえが手の届かないところに行ってしまうことについて、王子の気持ちは超、超、超低空飛行だ。


口が裂けてもおめでとうなんて言えない俺から、おまえに送る最高の言葉。

an Happy Marriage




prev|next

top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -