Short story

若葉


「今日からお前達に剣術を教える!お前達も、いつかこの俺を越えるような立派な剣士になれ!ま、ガキどもには100年経っても無理だがな〜!ワハハハハ」

「100年経ったらボスはおじいちゃんだねぇ!」

「クソジジイなんかに負ける気がしねえよ」


ふたりは、剣帝テュールの初弟子である。

このふたり以外で、剣帝の弟子となったのはたったひとり。2代目剣帝だけだが、ふたりの剣帝が出会うのは、もっと後の話ーー


弟子を取らないことで有名なテュールが、ザンザスとエミに剣の指導を始めた。
テュールの指導は指導というよりもとにかく実践あるのみという、彼らしい教え方だった。型もなく、流派なんてものも持ち合わせていない彼は、剣を握ることの楽しさ、強くなることのおもしろさを、気づかせてやるような指導だった。

ザンザスは生まれ持ったカリスマ性で、早くも頭角をあらわしていた。細身だが、しっかりとした骨格をしているので、成長すればかなりいい体格になるだろう。
エミは、母親譲りのジャッポーネ特有の華奢な体格をしており、自分の体ほどもある西洋の剣を振り回すのも一苦労といったところだ。しかし、生まれた時からここで遊んでいた彼女は体の使い方が抜群に良かった。腕力の弱さを補う体の使い方を、誰に教わるでもなく知っている。

ふたりの成長ぶりが嬉しくてたまらないテュールは、いつかくるであろう自分の敗北を夢見ながら、目の前の子供達に全力でぶつかっていった。


そんなある日


「………!?!?!?お、おい、ザンザス?……お前剣はどうした?」

「部屋」

「部屋。じゃねぇよ!なんで置いてきちゃったんだよ!?この前まで肌身離さず持ってただろ!?」

「こいつがあるからいい。」


こいつと言ってザンザスが取り出したのは一丁の銃だった。子供の手にはまだ少し収まりきらないが、標準をテュールに合わせるザンザスはなかなか様になっていた。


「あー!ザンザスもう自分のもらったの!?いいなぁ!わたしも欲しい!」

「ちょ、お前ら銃術の練習なんていつの間に…」

「あら?あんたがこの子らに剣を教え始めたのと同じくらいよね?」

「エリ!?」


多種多様な武器を使いこなす暗殺者たちだが、その中でも得意分野というものはある。テュールが剣の道を極めたように。
副隊長エリは二丁の銃を使いこなすヒットマン。まるで踊るようにしなやかで無駄のない動き、そしてその正確性。彼女もまたその二丁の銃で名を上げてきたのだった。


「おい、ザン〜?お前は俺の後を継いで、2代目剣帝になる男だろー?俺と同じ剣士になるだろう〜?」

「俺は、ボンゴレ10代目になるんだ!お前みたいなアホにはならない!」

「10代目で剣帝になればいいだろうがよー!」


テュールはザンザスに泣きついた。
もちろん、腕を払われて睨まれた。


「残念だったね。こいつは剣よりこっちの方が向いてる」

「なにおう!?!?ザンザスは剣の才能だってあるぞ!!」

「本人がこっちのほうがいいって言ってんだからいいじゃないのよ!」

「大きくなったザンザスが腰に剣差してたらかっこいいだろ!?」

「剣じゃなくたっていいじゃないの!」

「俺がやだ!!!」

「あんたのわがままを押し付けんじゃないよ!」







ふたりの言い争いはその後も続き、「剣と銃どちらが強いのか決着を付けよう」などというとんでもない夫婦大喧嘩にまで発展した。
この戦いは当時のヴァリアー隊員の間では結構有名な話だったりする。


「なぁ、エミは剣士になるよな〜?それでいつか俺のことを倒して2代目剣帝になるだろ〜?」


彼はどうしても自分の弟子に自分を超える存在になってもらいたいようだ。


「わたしはね、ボスと母様の子だからふたりのようになるよ!どっちかじゃなくて、どっちにも!」

「…そうか!そうかそうか!」







数年後、背中に大剣を背負う彼女の腰には、しっかりと一丁の銃がおさめられていた。




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