Short story

10年後のふたり

※10年バズーカで入れ替わっていた大人陽子側のストーリーです。





ピンク色の煙が晴れて目を開けた先には予想よりも多くのギャラリーがいた。


どうやら私は無事、元いた世界に戻ってこれたようだ。



「陽子、おかえり。」


「………ただいま、武。」


隣を仰ぎ見れば武がいた。10年前の彼もこうして私の左隣にいてくれた。


無事に帰ってきたことを喜ぶ間をほとんど与えられずに、検査室のようなところへと連れて行かれた私は、精密検査を受けることとなった。

頭にいろいろ付けられて脳波を調べたり、身体検査も行われた。過去に、それも何日もの間行っていたのだから当たり前か。


10年前の世界にいたランボという子はよくいくって聞いていたけど、5分という短い間の話だし、同じ軸の人間同士が入れ替わるのはそこまで大したことではないらしい。あとからメカニックの入江くんとスパナさんに聞いた。私からすれば、過去や未来に行くこと自体信じられないことだけどね。でも、実際自分自身が体験してきたことだから、信じるけど。

私の場合は、入れ替わったのが違う世界の私だったことが話をややこしくしたらしい。なかなか帰れなかったのもそのせいだ。

何はともあれ、無事に入るべき世界へ戻ってこれたことに安心した私は、検査の途中で意識を手放した。


目を開けるとそこは見慣れない部屋だった。病院のような真っ白な部屋ではなく、わずかに生活感のある部屋。目の動かせる範囲で部屋の中を見渡して見たけれど、なかなか広さのある部屋だった。

今は何時だろう。起き上がる気にもなれなくて、そのままの状態でぼーっとしていた。10年前の私も無事にみんなの元へ帰れたのかな。同じ私なのに、持つ記憶が違う私。彼女は、武と同じ高校に通い、共に学生生活を過ごし、ツナくんたちとも友達だった。そして、武たちがマフィアであることも本人達からすでに聞いて知っている。知っている上で一緒にいることを選んだんだ。


私が、マフィアのことを知ったのは約3年前。
武とも以前のように連絡を取り合ったりするような仲ではなくて、お互いに自分の仕事があった。私は普通のOL。武はイタリアにいるって聞いていたから、国際関係の仕事をしているんだと思っていた。

久々におじさんの顔を見ようと思って訪れた山本家でおじさんは殺された。その後のことは今でもよく思い出せなくて、ただ倒れたおじさんの姿だけは忘れたくても忘れられなかった。一時は、そこらへんの記憶も消されていたらしく、忘れていたのだが、全てが終わった後何もかもがもとどおりになった世界を見て違和感を感じずにはいられなかった。おじさんが笑顔でお寿司を握ってる。いつもと変わらない笑顔のはずなのに、たまにちらつく苦しそうな顔。そんな時、武とツナくん、獄寺くんに呼ばれボンゴレというマフィアの話を聞いたんだ。

武が何者なのかも分かった。
この世界を救ってくれたのも分かった。
でも、それと同時に住む世界が違うんだってことも分かった。

話を聞いた後の私達は、お互い元の生活をしていた。たけしはマフィアとして。私はどこにでもいるOLとして。

連絡を取ることもほとんどなかったし、気にかけることすらなかったと思う。



コンコンコン


ノックの音で、現実の世界へと引き戻された。
私が返事をしないから、部屋の外の人物も中に入ってこない。正直誰だかわからないし、このまま寝たふりでもしてしまおうかとさえ思った。

もう一度、ノックをされたら返事をしよう。そんなことを考えていると、ゆっくりドアノブが回され扉が開いたのがわかった。音がほとんど出ていなかったので、部屋の前の人物も私が寝ているものだと思って気を遣ってくれたらしい。どうせなら、そのまま立ち去ってくれたらよかったのに。


寝たふりを決め込むか、それともたった今起きたというふりをするか考えあぐねているうちに訪問者はこちらへ近づいてくる。足音がほとんどしないので、とても怖い。私の寝ているベットのそばで、人の立ち止まる気配がした。目はとっさに閉じてしまったので、誰だか確認することもできない。


「……起きてんだろ、陽子」


「……………ばれてた?」


「まぁな。」


声の主は武だった。


顔まで上げていた布団を少しだけずらして武を見る。思ったよりも近くまで来ていた武が私を見下ろしていた。起き上がろうとする私を手で制して武はベッドの端にちょこんと座った。広い背中が目の前に広がった。



「10年前はどうだった?」


「…不思議な、感じだった。」

どうって聞かれても、うまく答えられないっていうのが正直なところ。あそこは、私の過去じゃない。同じ私なのに全く違う私がいた世界。
みんなの輪の中に私もいた。


「なー陽子、オレらお互いのことはなんでもわかってたはずなのに、いつから分かんなくなったんだと思う?」


「……………」


分かっていなかったのはきっと初めからだ。
分かるふりをして、分かろうとしなかった。
お互いに自分の気持ちを伝えることも、相手の気持ちを聞くこともしなかった結果が、今の私たちだ。生まれた時から一緒にいて、何をするにも一緒だったのに、いつしかそれぞれ違う道を歩み、違う方を向いて歩いていた。


「10年前のお前がさ、俺の前で泣くんだぜ?俺、陽子の泣いたとこなんてほとんど見たことなくて、どうしていいか分かんなかった。泣いてる陽子、すっげー可愛くてさ。側で守ってやんなきゃなーって思ったぜ。」


「悪かったわね、可愛くない女で。」


「ちげーって。」


何が違うんだ。確かに私はあまり泣いたりしない。人前ではもちろん、一人の時も泣いたりするのは好きじゃなかった。泣いてどうにかなるものでもないし、泣いてたってなにも変わらない。めそめそしている暇なんて、私にはなかった。

過ごした過去が違うだけで、同じ人間なはずなのに、随分と性格に差がでるようだ。


「わりぃ。」

「何に対して謝ってるの?」

「ずっとそばにいたのに、陽子の泣き場所になってやるどころか、遠ざけちまった。守ったつもりが、逆に傷つけた。」


顔は見えないけど、今きっと泣きそうな顔してるんでしょ?
広いはずの背中が小さく見えた。身体ばっかでかくなって中身はまったく変わってない。武も、私も。


何が正解だったかなんてわからない。今も間違っていたとは思わない。だって、会わない時期やすれ違ってた時期があったのに、今はこうして話ができてる。なんだかもう、それだけで十分なんじゃないかなって思う。

過去はどうしたってやり直せないから。私たちが間違えたことをあの子達は繰り返さないでいてくれたらそれでいい。過去はやり直せないけど、今この瞬間から先の未来はもしもの数だけ存在するんでしょ?だったら私たちのやるべきことは、最悪のもしもをたどるんじゃなくて少しでも今より良い未来になるように今出すことのできる最善の答えを選び続けること。


「ねぇ武。これから先の未来は昔みたいに一緒に笑っていたいね。」

「……………あぁ!」


過去のあの子達に負けないように





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