Short story
夜の彼は泣き虫
「ねぇ、起きてよスクアーロ!!!!ねーってば!おい!お!き!ろ!お!き!ろ!」
「…………………」
「起きろって言ってんのが、聞こえねぇのかこのロン毛がぁぁぁ!!!」
「っだぁー!うるせえんだよ!聞こえないふりしてんのがわかんねぇのかてめえは!」
夜通しの任務から帰ってきたのはついさっき。
人を殺ったあと特有のけだるさと戦いながら風呂に入り、だいぶ伸びてきた髪の毛を乾かして寝たのが今。まさに今。
疲れた体をベッドに沈め、漸く冴えきった脳みそが体に合わせて機能を鈍らせてきたところにこのクソうるさい女はやってきた。
「ねぇ、朝だよ!起きなよ!」
「うるせえ。俺にとっては朝が夜だ。睡眠の邪魔すんじゃねぇ。」
「意味わかんないそのロン毛引っこ抜いて売り飛ばされたくなかったら3秒以内に起きて目を開けて私を見なさい。はい、いーち、にーい、ズドーン!」
「う"ぉ!?!?!?」
この女、あり得ねえ。
寝てる人の脳天めがけて走り込みながらのかかと落とし決め込みやがった。間一髪避けた時に舌打ちが聞こえてきたのは気のせいじゃねえ。頭いかれてんじゃねぇのかこいつ。
せっかく鈍ってきた脳みそも、命の危機を察知したせいでまた冴えた。普段から眠りの浅い俺だが、今日はなんとなくぐっすり寝れる気がしたんだがなぁ。
「お前今日任務は」
「ないよ」
「あぁ!?てめえ昨日も出てねえだろうが!」
「だってボスが休んでいいよって」
おれは今日までの2週間働き詰めだったっていうのに、いいご身分なもんだなぁ!だいたいザンザスがこいつに甘ぇから、調子に乗りやがるんだ。
「ねぇ、スクアーロってば!起きて外見てみなよ」
「だりぃ、さみぃ、ねみぃ、面倒くせえ」
「だらしない男」
俺のことをとやかく言う資格のないだらしのない女だろうお前だって。言葉遣いは悪いし態度もでけえ。プライドも人一倍高いやつだから、うまく甘えることができなくて結局全部ひとりで抱え込むような要領の悪い可愛くない女だったなお前は。
身体自体は疲れ切っていてこのまま何も考えずにいれば、数分のうちに眠気がまたやってくるだろう。でもどうにも外を見て欲しいわがまま女がうるさいから、仕方なく立ち上がりもう明るくなっているであろう外を見るためカーテンを開けた。
「……………雪か」
どうりで寒いわけだ。
白いふわふわの雪が空からゆっくり降りてきている。
雨とは違い身軽な雪は、風に揺られてあっちへふわふわこっちへふわふわ。自由気ままに空から舞い降りてくる。どっかのわがまま女に似てんなぁ。
あぁ、忘れたくても忘れられない。
真っ白な雪の上に続く赤い道しるべと、その先に眠るように倒れたお前。
白の中、お前に続く赤と黒い隊服が不覚にも綺麗だと思ったなんて言ったらお前は喜ぶだろうか。
「わざわざ雪降ってること教えにきたってのかぁ?可愛いところもあんじゃねーか」
この分だと俺が寝て起きる頃には積もってんだろう。今年もこの季節がやってきた。
どの季節だってお前のことは忘れたことなんかなくて、未だに夢にだって出てくる始末だが、1年でこの季節がいちばんお前を身近に感じられる気がするから俺は冬は嫌いじゃねぇよ。
好き勝手に舞う雪がどうにもお前とかぶって、まるで空からお前が遊びにきてるみてえだなんて女々しいことを考えたりもする。
今日はやっぱりお前が近くにいるような気がするから、ぐっすり眠れそうだなぁ。
夜の彼は泣き虫 title by花洩
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