Short story





雨はいつも突然降り出し、何時の間にか止んでしまう。

とても気まぐれで、まるで…。


コポコポコポッ…


最後の一滴が小さな瓶の注ぎ口からこぼれ落ちて、雨と混ざって墓石に落ちた。


ザンザスが持ってきたのと同じ酒を、同じようにかけた後、子供に目線を合わせるようにしゃがんで刻まれた<テュール>の文字を見つめる。



ボスはまるで雨みたいに気まぐれな人だった。

ヴァリアーという荒くれ者たちの頂点にいるにも関わらず、自分の好きなことばかりする人で組織のことはほとんど母様に任せっきりだった。しかし、いざという時には自ら先頭きって突っ走るような人で、その背中をみて育ってきたヴァリアーの隊員たちは皆`そういう´奴らの集まりだった。



ボスがいなくなって、母様がいなくなって、ザンザスが凍らされて…。


『みんな、いっぺんにいなくならなくたっていいじゃない…』


いきなりだった、何もかも。


副隊長としてどうあるべきか、どうすればザンザスを助け出すことができるのか、これからわたし達が取るべき行動。

考えても考えても、答えは見つかるどころか泥沼にはまり抜け出せなくなっていった。


『はぁ…』


らしくないため息もここでなら誰も聞いていない。

弱音も愚痴も、ここでなら……その時声が聞こえた気がして顔をあげてみたわたしの目に映ったのはあの日父様が命をかけた自らの剣だった。



雨に濡れて錆びてもなおその存在感は堂々たるもので、剣に命を捧げて剣と共に生きた剣帝の剣。


『ボスはなんで戦うの?』

「強い奴とやりあうのは楽しいだろ?」

『別に…』

「……まぁおまえは女の子だからな。ただ男ってやつはいつまでも子供の頃の夢を追い続けるものなんだ!」

『ボスの夢はボスじゃないの?』

「おれか?俺の夢は……ー」


ボスは雨のような人だった。

いつも突然振り出して、何時の間にか止んでしまう雨のように自由な人。

周りを気にかけるような人ではないけれど、背中で生き方を語るような人。

雨の通った後はいつも、すべてが洗い流されたような清々しい虹がかかる。

雨で足を止めた私たちが再び歩き出せるように…。



何が正解で、何が間違いだなんて死ぬ時になんなきゃわかんねぇよ。

それならしたいことして、悔いが残らないように生きないとな。

後ろを振り返った時、ついてきた仲間がいれば上出来ってもんじゃねーの?




わたしの後ろにも、ついてきてくれる仲間がいるだろうか。



一筋の涙が頬を伝った。

時期に梅雨が明ける。

わたしの梅雨も終わりにしよう。








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