Short story





『………ぷっ、く、く、く…!』

「………………っ!!」

『あ、ちょっとなんで顔隠すの!』


「行ってこい」そう言っているような柔らかい笑みは一瞬で消え、いつもの眉間にシワが刻まれた顔に戻ってしまったスクアーロだが、赤い顔のせいで迫力は感じられない。スクアーロってあんな風に笑えるんだ。なんだか得した気分。


わたしに笑われたからだろうか。

恥ずかしさがこみ上げてきたらしいスクアーロは片手で顔の大部分を覆い隠しこちらから背けてしまった。


『耳が赤いよスクアーロ』

「う"お"ぉい、うぜぇぞぉ!!」

『らしくなかったんだもの』

「ちっ」

『ねぇ、スクアーロも一緒に行かない?父様のところ』


特に深い意味はなかった。ただその場にいたから誘ってみたまでのことで、もし仮にルッスーリアがこの場にいたとしてもわたしは彼女を同じように誘っていたと思う。しかし、スクアーロの場合は少し無神経だっただろうか。口に出してみてから気づいたところでもう遅く、出た言葉を取り消すことはできはしない。


「あぁ"?なんでオレがあいつの所なんざ行かなきゃならねぇんだ。行きたきゃてめぇ一人で行きやがれ!」

『そっか。なんかごめんね』

「〜っ!だいたいなぁ!あいつの場合俺がついてったらぜってぇー、家族団欒の邪魔すんなだのって文句垂れんだろうが」


スクアーロの言葉はすぐに映像として頭の中に流れ込んできた。スクアーロを邪魔者扱いする父様と、それに怒鳴るスクアーロ。わたしはきっと止めるのに使う体力がもったいないので二、三歩下がったところからその光景を眺めるだろう。


「おまえほとんど屋敷から出てねえだろ。雨にでも打たれてきやがれぇ」


こちらを見ずにわたしにそう告げながら扉に向かうスクアーロは片手をひらひらさせながら部屋から出て行った。


誰もいなくなった部屋には相変わらず止む気配のない雨の音だけがしとしとと響く。







この時期のあいつは雨のせいかひどく儚げに見える。


慣れた人間に対しては比較的常に笑顔でいて、訓練中のあいつの真剣な顔は紛れもなくエリに似ている。喜怒哀楽を常に曝け出すようなタイプではなく何かと一人で抱え込む。それでいてあいつは強く芯のしっかりした奴だ。弱音をはいたところはもちろん、泣いたところや疲れた顔は一切見たことがなかった。


いつからあいつをこんなによく知るようになったのかなんてオレにだって分からねえ。気付いたら気にかけていた、そんなところだ。あいつはここの副隊長でザンザスがいねぇ今、ここを指揮するのは紛れもなく副隊長であるあいつの仕事だ。オレはザンザス以外の下につく気なんざこれっぽっちも存在しないが、ザンザスにとってあいつが特別なんだということは誰が見ても明らかな事実で、ならオレはそれを守ってやるだけだ。


テュールの命を奪っておきながら変な話ではあるがテュールにはザンザスだけでなく、エミのことも頼まれてんだぁ。いい迷惑だけど死人の最後の望みくらい叶えてやってもいいとは思っている。


無意識か、普段空も気にしねぇような奴がこの時期の当分止みそうにもない雨の日にだけ空を見る。別に泣きそうなツラしてるわけでも、何かもの思いにふけるわけでもなくただただじっと雨を見つめていることがある。


強いからこそ弱味は人に見せない奴だ。


あの日以降あいつが泣いてるところは見ていない。もしかしたら誰もいないところで一人きりで泣いているのかもしれない。


テュール、てめぇ自分の娘オレに丸投げしやがって覚えてろよ。


なあ、お前だったら泣けないあいつになんて声をかけてやんだろうなぁ。


「オレじゃまだ役不足だってわけかぁ"…」


(そんなもん自分で考えろよ)


そんな声が聞こえた気がした。








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