Short story

梅雨の日1


泣き虫だったわたしが泣かなくなったのは果たして大人になった証拠だっただろうか。



梅雨の季節になるといつも空が代わりに泣いているように思う。


『雨だねぇー…』

「雨、だなぁ」

『梅雨だねぇー…』

「そうだなぁ」


しとしとと降り続く雨を窓際から眺め続けるわたしの隣で、窓に寄りかかって腕を組むスクアーロ。わたしの言葉に時より視線を窓の外に向けはするけどその視線もすぐに戻されてしまう。




ボスが死んだのは雨の降りしきる梅雨の時期だった。



あれから3回目の梅雨がきた。



ザンザスと共に反乱事件を起こしたわたし達ヴァリアーは相変わらず監視され自由に動くことができずにいた。そんなわたし達がすることといったら身体が鈍らないよう訓練すること。



しかしそれもこのじめじめとした湿度の高い今の季節は億劫で部屋でのんびり過ごす隊員達が多い。かくいうわたしもその中の1人というわけだ。


「こんなところで何してんだぁ」

『何って…外見てんの』

「…そうかぁ」


なんだっていうんださっきから。ここで何してるかなんてこっちのセリフだよ。

外を眺めるわたしの横で外も眺めず佇むスクアーロ。


なんでわたしの隣に用もなくいてくれるのかはなんとなく分かっている。これはスクアーロなりの優しさと償い。


あれは2年前―


あの日と同じように空は曇り、雨はしとしとと…決して強くはなく降り続いていた。


『もう梅雨か…』

「ねーちゃん雨嫌いなの?」

『嫌いじゃないけど…』


嫌いじゃないけど大好きだった人を思い出すのには十分だった。そう言えばベルは「それってボス?」と首を傾げる。


ザンザスのことを思い出すことはないよ、忘れる日がないもの。


梅雨は普段忙しさを言い訳に忘れてしまっている父様を思い出す。そんな会話を同じ部屋にいたスクアーロは聞いていたわけだ。


『ねぇスクアーロ?』

「なんだぁ?」

『スクは雨の守護者だけど梅雨の雨みたいにしとしと降る雨じゃなくて、どちらかと言えば嵐みたいな雨だよね』

「ゔおぉい、うるせぇって言いてぇのかぁ!?」

『ほらうるさい』


わたしがクスクス笑うものだからスクアーロは罰が悪そうに口ごもって頬をかいた。


思えばザンザスとお墓に行ってから一度も顔を見せに行っていない。


あの丘は外出の範囲内だろうか。訳を話せば許されるだろうか。お花は庭師にもらおう。お酒も料理長に言えば父様のすきな銘柄を出してくれるだろう。傘はささなくていいか、どうせ濡れるんだし思いっきり濡れてしまおう。


「何難しい顔してやがんだぁ」

『え?あぁ、お酒あるかなって』

「おまえが飲むのかぁ!?」

『違うよ父様に!』


久しぶりに会いに行こうと思って、そう言えば僅かに目を見開いたあと珍しく本当に笑うもんだから、つられたわたしの方がいつものスクアーロみたいに笑ってしまった。



―続く―





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