Short story
拝啓、かみさま
例えば任務の後で食べようと、大切にしまってあったはずのチーズケーキが、テーブルの上にあったとしよう。そのチーズケーキはもはや跡形もない。
ラップに名前が書いてあるということは、すなわち誰かの所有物であるという証。
人の物は取っちゃいけません。
誰もが一度は教えられるはずの超が付くほどの一般常識。
『………………。』
「あらななし、おかえりなさい」
『ルッス、犯人は誰』
「聞かなくても分かってるじゃない」
空になった皿と睨み合いを続けて数秒。
ルッスーリアの返事は聞かずに部屋を出た。
誰の仕業かなんて聞かなくても分かる。わざわざ名前が書いてあるにも関わらずこうゆうことをするのは決まってベルフェゴール。証拠を隠滅するどころか見せびらかすかのような真似をするのは、怒ったあたしが必ず怒鳴り込みに来ると分かっているから。いい遊び相手にされているのは百も承知だけど、一言物申さないと気が済まない自分の性格も十分理解している。
『ベル』
ノックはしない。
扉を開けるのと同時にこの間無断で拝借したナイフを顔面めがけて思いっきり投げたけど、こちらも同じ柄のナイフで弾かれカランと寂しい音を鳴らして落ちただけだった。
『チーズケーキ』
「ごちそーさん」
『あたしの、チーズケーキ』
「俺、王子」
『人の物は取っちゃいけないって習わなかったわけ?』
「王子だからいんだよ」
『屁理屈。我が儘。堕王子。』
「こっちこいよ。今から王子の手によって息の根止めてやるから」
『やれるもんならやってみなよ。あとで謝ってきたって許さないから』
「誰が謝るかよ」
『悪いことしたら謝るのが普通でしょ』
「暗殺者が道徳語んな、よっと」
終わりの見えない言い争いはベルがナイフを投げてきたことで乱闘に発展。レビィやスクアーロを巻き込んで最後にはボスに怒られ静まる。いつものパターンだった。最後にはいつも何に怒っていたのかも分からない。
暴れたらすっきりしたからお腹がすいた。そろそろ3時のおやつの時間で談話室に行けばおやつが用意されているだろう。甘いミルクティーが飲みたい。
『ベル今日のおやつ何かな』
「王子の勘だとスコーン」
『あ、いいね!』
拝啓、かみさま
「常識」っておいしいの?
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