Short story

VD

 



一輪番外編:バレンタイン
(時間軸的にゆりかご+1年くらい)



「何作ってんの?」

『んー?チョコとかクッキーとか』

「ちょっとベルちゃん!男子禁制の貼り紙無視しないでちょうだい」


甘い香りに誘われてやってきた我が儘王子は、溶かし途中のチョコレートに指を突っ込み「あま〜」と舌を出した。


『こら指を突っ込まない。手綺麗なんでしょうね?』

「汚くなんかねぇよ!それより今日のおやつ豪華じゃん」

『へへへ、それは後のお楽しみだよベル』


さぁ出た出たと追い出され扉まで閉められたベルは「エミのケチ!」と叫んで走り去った。


「拗ねちゃったわよ?」

『出来上がる頃には忘れてるよきっと』


母様はもっぱら食べるの専門でほとんど料理なんかしなかったけど、バレンタインだけは毎年張り切って作っていた。

男ばかりのヴァリアーには職業柄寂しい男たちがいっぱいで、ヴァリアーの母でもあった母様は毎年手作りのお菓子を隊員一人ずつに配っていた。


みんなあたしの子供みたいなもんだよ!


隊員達を厳しく指導する反面、任務が成功し帰ってきた隊員達を笑顔で迎える母様のおかげでここはファミリー以上に本物の家族であり帰る場所なんだと実感できた。


ヴァリアーのバレンタインは好きの気持ちに乗せて、日頃の労いや感謝、敬意、そんな普段口にはしないようなこと全部をお菓子に詰め込んでプレゼントする素敵な日。


『さーて出来た!』


一人ずつに包むのは時間の都合上割愛して、所属ごとにある程度盛り合わせにして渡すことにした。戦闘員から情報処理、調理場、医務室に至るまで配り終え最後にやってきたのはいつも自然とみんなが集まる談話室。いつからこんなに賑やかになったんだろうか。



ほんの2年前まではあたしとボス、母様、ザンザスたまにルッスーリアが来る程度だったのに。


『ベル、お待たせ』

「王子腹ぺこ!」

『あ、こらベルフライング!』



空腹で拗ねていたことなど忘れていたベルが我先にとクッキーに伸ばした手をペシンと叩き落ち着かせてから改まって一言。


『みんないつもありがとう。ハッピーバレンタイン』

「おい、その包んであるやつはなんだぁ?」

『あ、あれに手出したら灰にされるよ?』


クスクス笑って談話室を後にしたエミの背中を眺めていたスクアーロに「あれはボスのなのよん」と答えたのはルッスーリア。ここでいうボスとはきっとザンザスのことだろう。


真っ赤なリボンの可愛らしい包みには、甘さ控えめのあいつ好みのクッキーが入っていて、あいつがいつも偉そうにふんぞり返っていた椅子の上に置かれている。


「誰だ、こんなとこにこんなもん置いたのは」

『わたし、わたし!ねぇ甘さ控えめなの。自信作だから食べて!』

「は、食えなくはねぇな」


そんな会話が聞こえてきそうな程に、俺達の中でザンザスという存在は確かにでかかった。





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