着飾るレディの思惑
「見て見て!」と両手を猫のように顔の横にやる彼女の爪は新しいネイルになったようだ。
「午前中の予定ってネイルサロン?」
デートの前に予定があると言っていた理由がわかって、その理由が可愛くなるための努力で、それを自分に一番に見せてくれる彼女が可愛くて堪らない。
綺麗に塗られたネイルも艶々の髪もふわふわすべすべの太腿だって、全部丁寧に時間をかけて手入れをしているのを知っている。そんなナマエの努力は俺のためなのかもしれないと自惚れてしまうほどに可愛い彼女にハマっている。
「今回も可愛いじゃん」
「でしょ? お気に入り」
爪先は目に入る部分だからそこが華やかだと嬉しいんだとか。ネイルを変えた日のナマエは暇さえあれば爪を見てにっこりと笑う。そんな彼女を見て俺も笑う。しあわせの循環だ。
あまりゴテゴテとした装飾をしない彼女の爪を撫でる。
「ん? 薬指だけ石がついてる」
小ぶりのストーンが一つ。その横にはシルバーのラインが引かれていた。右手の薬指にはない、片手だけの特別な装飾は派手さはないがしっかりと視線を集めた。
「これリングネイルって言うんだって」
指輪見たいでしょ? と左手を顔の横に添えた彼女。ピンと来るものがあってもう一度その手を取りまじまじと見つめる。
「指輪じゃん」
「かわいいよね」
ナマエの言葉に俺は素直に頷いた。女子の言う"かわいい"は信用できない時もあるけど今回ばかりは大賛成。まぁ何をしても可愛い俺の彼女がお洒落してるんだから可愛いのは当たり前だとしても、だ。
左右の爪をもう一度ひとつひとつ見て、やっぱり左手の薬指にたどり着く。
「このストーンね、何色かあったんだけどこの色が一番竜胆に似てるかなって」
えへへ、と笑った彼女にピシリと固まった俺。なんて可愛いことしてんの、こいつ。一周回ってムカつく程に愛らしい。小さな小さなストーンにさえ俺を見出している彼女はリングネイルとやらを大事そうに撫でてまたにこりと笑う。
俺はそんなナマエの左手をとり薬指の本来指輪が輝く位置にわざとらしく口づけを落とす。チュッと鳴った音に弾かれるように顔を上げたナマエは頬を染めてから恥ずかしそうに俯いた。
「りんちゃん」
甘えたな声をあげるナマエ。可愛い。
小さくて子供みたいだからコンプレックスなのだと話していた手は確かに小さくて、握り拳なんてまるでコンビニのおにぎりみたいな大きさだ。
「ナマエ、顔上げて」
親指の腹で左手の薬指を撫でる。
「ここは俺が予約していいわけ?」
「うん。竜胆のために空けてあるよ」
早くしてね、と耳打ちをしてくる可愛い彼女を、もうこれでもかというほどぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「お前、どこでそんなの覚えたの? 反則じゃん」
「りんちゃん、とーり!」
「兄貴みたいなこと言うな」