さよならの向こうで
待っていたものF


「三ツ谷ー年下とまだ付き合ってんの?」
「おぅ一応」

 そろそろ別れるんだろうなって思っていることがバレたのか、ドラケンは人の悪い笑顔で酒を煽った。
 タバコがバレてから彼女の目はいつも俺の嘘を探してる。実際に辞めたと言ったものを辞めていなかった訳だから、信用できないのも仕方がないことだけど。信用してもらわなくてもいいとさえ思う自分に驚いて笑った。

「もうナマエと付き合えば?」
「俺らが付き合ってんの想像できる?」
「できない。けど夫婦になってんのは想像できる」
「そこなんだよなー」

 実を言うところ、俺自身もそうだった。ナマエとカップルとしてお付き合いを始めるのはなんかこう、母親に彼女とのあれこれを見られてしまったようなそんなバカでかい気恥ずかしさがある。それなのに家族になって一緒に食卓を囲んだり、スーパーに買い物に行ったりするところは簡単に想像できた。
 そこの差は一体何なんだろうと考えてみても、十年来の友達付き合いが邪魔をしているんだとしか思えない。

「ナマエは三ツ谷のこと有りだってよ」
「え、ナマエがそう言ったの?」
「いや、言ってねぇけど」

 この間飲んだ時に、場地は「ない」と答えたナマエが、俺は「彼女がいる」と答えたらしい。浮気をされたことがあるナマエはその時のショックが忘れられない。だから自分は絶対にする側にはならないし、今度彼氏が浮気をしたらどんなに好きでも別れるんだと言っていた。前の奴は一度許してしまったらしい。

「対象外ってことじゃん」
「違えだろ。彼女いなかったら有りってことだろ」
「都合よく考えすぎ」

 俺にも彼女がいない時期はあった。その時もナマエとは変わらずに会っていたけど、そんな素振りは一度だって見せたことがない。だから俺もナマエを恋愛の対象に数えてこなかった。

「お前は有りだろ?」
「ナマエが無しなのにいかねぇよ」
「お前らほんとさー」

 ドラケンの低くて甘い声が呆れたように店内に響く。俺たちのことを俺たち以上に気にかける仲間思いなドラケンには悪いが、ナマエは俺にとってこれからもずっと傍にいて欲しい存在だ。それが恋人や夫婦という関係性にならず、ずっと友達だったとしても。
 その辺の女と付き合って別れるのとは訳が違う。ナマエにいくって言うのはそういうことだ。

「傷つけたくねぇし」
「傷つきたくないの間違いだろ」
「…………」

 何も言葉が出てこなかったのは、図星だったからかもしれない。

 今までの女達とは違うから、こんな風に女と付き合う俺がナマエを幸せにしてやれる自信がない。ナマエを傷つけることはしないと誓えるのに、知らぬところでナマエが傷ついてしまうことさえも許せなかった。女に嘘をつける男だと知っているナマエが、今の彼女のように俺の言葉の一つ一つを信じられなくて見えない不安に押しつぶされてしまうかもしれないし、そうやって俺を疑う自分を責めてしまうかもしれない。

 ほら、今のままの方がずっといい。

「今まで適当にやってきたのは別に責めたりしねぇけど、いい女くらい本気でいけば?」

 ナマエのことだなんて言われなかったけど、俺の頭の中には自然とナマエの顔が浮かんだ。

「日和ってるわけにはいかねーか」
「うわ、懐かしいなそれ。マイキーだろ?」
「一時期はやったよなー俺らん中で」

 強い言葉で自分を奮い立たせないと手も伸ばせない臆病者の俺。



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