さよならの向こうで
待っていたものD


「ナマエ、彼氏できた?」
「できてないって分かってて聞いてくんの意地悪すぎない?」
「お前はよ男作んねーと枯れるぞ?」

 失礼なことを抜かす幼馴染の足をヒールで潰したら頭を叩かれた。容赦がないのはお互い様だけどこっちは女の子なんだから手加減くらいして欲しい。
場地とドラケンの恒例の飲み会に呼ばれた私は仕事帰りのスーツのまま居酒屋に顔を出す。マイキーの被害者の会、それは私たちが中学生の頃から続いているが最近はマイキーからの被害報告も少なくもっぱらただの近況報告会となっていた。

「良い人いねーの?」

 枝豆をつまみながら質問の形を変えて恋バナをしたがる目の前の男は、探るような目で私を見つめてくる。ドラケンがこんなに恋バナが好きだったなんて知らなかったな。そう誤魔化しても逃してくれることはなさそうだった。

「いないかなー。アプリやってたけど最近は面倒になっちゃってログインしてない」
「お前そんなんやってたんか」
「出会いないんだもん」

 毎日同じ時間に起きて同じ電車に乗って同じ会社に行く。同じことの繰り返しの中で、素敵な人と出会って恋に落ちるのは私には難しすぎるのかもしれない。学生時代はそんなに難しいことだなんて思っていなかったのに、社会人になった途端これだ。私の青春は学生生活と共に終わりを告げた。

「三ツ谷とかどうなの?」
「彼女いるでしょ」
「じゃあ場地は?」
「ないわ」
「は!? 俺だってねぇわ!」

 手当たり次第自分の周りの男を紹介してくるのはやめて欲しい。突然隣の場地を恋人候補に挙げられても、場地は永遠に幼馴染だ。場地と恋人同士になんてなった日には全身に蕁麻疹が出てきて痒くて失神するかもしれない。同じようなリアクションをした場地も私のことは永遠に幼馴染として見てくれるだろうし、いくら一緒にいるのが楽しいと言ったって肩書きが変わったらその関係性は崩れてしまうに違いない。

「場地はねぇけど三ツ谷は有りなんだ?」
「え、そんなこと言ってないよね?」
「三ツ谷に彼女がいなかったらどうなんだよ」

 今日のドラケンはグイグイくるな。隣の場地に助けを求めようと横を向いたが、意外にも頬杖ついたまま私の答えを聞く気のようだ。二つの視線に挟まれてきょろきょろと彷徨わせる視線は落ち着きがなく、いつもの私らしくないなと少しばかり焦った。

「三ツ谷に彼女がいなくても、三ツ谷が私を選ぶことはないよ」

 お互いに似たもの同士であることを自覚していてうまく利用している。分かり合いたい時には共有をして、道がわからなくなったら相談をする。もともと決めていた道があるのに勇気が出なくて進めない時、三ツ谷はまるで自分のことのようにその道を照らしてくれる。そうしてくれると分かっているから三ツ谷に頼るのだ。
 友人の中の特別枠。私にとって三ツ谷はそんな感じの立ち位置だった。順位があるわけではないけれど、三ツ谷だけは何故か頭一つ分抜きん出ているような感覚がある。私の中で三ツ谷隆は、名前のつけられない感情の層にいる。

「ドラケン、コイツら見てるとウガーッてすんだろ」
「分かるわ」
「圭介に共感してる人初めて見た」
「この境地にきちまったらもう諦めて見守るしかねーわ」
「お母さんか」

 幼馴染にも十年来の友人にも心配をされてしまっては、本格的にヤバいのではないだろうか。やっぱり面倒くさいだなんて言ってないでアプリに本腰を入れた方がいいのかな。
 ただ今の季節、クリスマスまでに恋人を作りたい人間で市場は溢れかえっているはずで、自分もその一人のはずなのにそんな状況に嫌気がさすのだ。別にクリスマスに一緒に過ごす人が欲しくて彼氏が欲しいわけじゃない。いたらいたでプレゼントやデートコースに悩むことになる。そういう昔であれば幸せだったはずの悩みも暫く触れていないと億劫に思えてきてしまう。おひとり様に慣れた女の行く末だ。

「クリスマスなんか来なければいいのに」
「ま、飲めよナマエ」
「なんか慰められてる?」

 どうせいつものメンツで既婚者はパーちんだけだし、どうしようもなく寂しくなったらみんなを呼んでいつもの居酒屋で飲めばいい。
 薦められるがままやけ酒だとばかりにお酒を飲んだ私は、次の日頭痛に見舞われて少しばかり後悔をした。



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