さよならの向こうで
待っているものA


 酔ってるナマエがふらふらと自動販売機に吸い寄せられるのを横目に、店の外でドラケンと一服する。
 年下の彼女にタバコは臭いから嫌だと言われて、渋々禁煙をしている俺は彼女の前では優しく真面目な彼氏を演じながら影で匂いのつかないタバコを吸っていた。その独特の香りのするタバコの匂いを、ナマエは「とうもろこしみたい」だと言って笑った。
 ドラケンに一つもらった紙のタバコはやっぱりガツンと肺にきて気持ちがいい。

「実際どうなの? ナマエと」
「ドラケンまで聞いてくる?」
「お似合いだと思うけどってこと」
「俺もそう思う」

 自販機の前で場地に水を買わせようと試みるナマエの姿を見ながら笑った俺に、ドラケンは少なからず驚いたようだった。
 「マジか」と意味深に頷くドラケンは恋バナに花を咲かせる女子高生のようにうずうずしている。生憎、俺とナマエの間にはドラケンを喜ばせてやれるような浮いた話は一つもない。話したところできっと女に愚直なドラケンのこと、眉を釣り上げることになるだろう。

 少し離れたところでは水のペットボトルを首筋につけられて、その冷たさに悲鳴をあげるナマエとそんなナマエを笑う場地が見える。ナマエといるのは心地よくて時間がゆっくり進んでいくように感じる。何か話題を振らないとなんて考えることもないし、いい男を演じようとしなくてもいい。等身大の俺を、女にだらしない部分や情けない部分さえも曝け出すことができる。
 同じようにナマエもそうなのだろうと思う反面、俺とナマエじゃあんな小学生のようなやりとりで笑い合うことはないのだろうとも思うわけだ。どちらのナマエも取り繕うことのないナマエ自身なのだということは分かっていても、ナマエが最後に選ぶ男と望む関係性がどんなモノなのかを決めるのは俺じゃない。
 俺はナマエとならいい関係でいれる気がするし、結婚しても今の延長線上のような穏やかな家庭が築けるんじゃないかなんて想像も容易い。
 ただまぁそれをナマエも同じように望むかは別の話だ。

「オイ酔っ払い! 走ってっと転ぶぞ」
「酔っ払いではありませーん」

 場地の声を背にこちらに走ってくるナマエ。珍しく分かりやすい酔い方をしているナマエはご機嫌のように見えた。酔っ払いは大体「酔ってない」と口にするもんだ。

「ん」
「ん!」

 ナマエがやってくるのと同時にタバコをすり潰して手のひらを差し出す。その手に乗せられたペットボトルはアルコールで火照った肌に気持ちのいい冷たさだった。
 蓋を開けてやってからペットボトルをナマエに戻すとお礼と共にごくごくと水を飲む音が聞こえる。上下する喉のかわいい動きは男のソレとは全く違う。表に見えない喉仏も、ペットボトルの蓋を開けられない小さな手もこんなにかわいいと思っていても、それをナマエに伝えてやることをしない俺。

「ッあーお水うま」

 ナマエの持つペットボトルへと手を伸ばせば拒まれることはなく、喉に流し込んだ水はナマエの言うように美味かった。
 普段は味気なくてつまらない水が、こんな時には最高の飲み物のように感じて手を伸ばすのは随分勝手な話だなと思う。



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