俺だけの特別は誰にもやらん





「治くん元気ないね」

 腹ぺこ? と首を傾げながら俺の隣に名字さんが座る。スカートが地面に付いてしまわないようにちゃんとしまうところや、座ってんのにやっぱり俺より下にある顔とか、見上げてくる横顔とか。片割れの侑にはこの良さが分からんのやろなと残念に思いながら、どこかほっとしている自分も居って。

「今日はお腹いっぱいの気分」
「ふぅん?」

 名字さんはよく分かっていなさそうだったけど、それでも俺の隣にいてくれる。何か意味がある行動ではないんやろうけど、それでも今の俺には名字さんが特別な子になるには十分だった。

 バレーは腹が空く。腹が空いてバレーをして、腹いっぱいになったのに、また腹が空いて。いつまでも満腹になんかならないからどんどんオカワリがしたくなんねんな。

 ただ今日は腹が空かへん。そんな日もあんねやなあ。片割れだけが選抜に選ばれて、東京に行ってる。一方の俺はいつもと変わらない毎日を送っとる。

「今日は侑がおらんねん」
「それは静かでいいね」
「名字さんのそういうとこ好きやで」

 笑った俺の顔を惚けた顔で見上げる名字さんは、今まで見たどんな顔よりかわいくて。初めてバレー以外で腹が減った。こんなん初めてや。バレーでの賞賛も拍手とも違う、俺の隣におってくれるだけで腹が減ったり、満たされたりするそんな特別な子。

「名字さんは俺の特別なんやけど、俺も名字さんの特別になれんのやろか」
「治くんは初めて会った時からわたしの特別だよ」
「なんや腹減ってきたわ」

 君の美味しそうな唇は一体どんな味なんやろうな。

「俺だけの特別は誰にもやらん」






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