最近お付き合いを始めた松川くんと週一デートの月曜日。毎日部活で忙しい彼の、唯一のお休みを、わたしが独占できるなんて幸せ者だ。ふたり並んで歩けるのも、手を繋いでくれるのも、片方の口角を上げて微笑みかけてくれるのも。いつまでも、わたしだけの特別だったらいいのにな。
新作のフラペチーノを買ってるんるんしているわたしの横で、松川くんはコーヒーを飲んでいる。高校生なのにコーヒーなんてすごい。わたしにはまだ、コーヒーの味は苦くて飲めないし、ちょっと職員室の香りがするから苦手。
「コーヒー飲めるなんて、松川くんは大人だね」
「んー?」
そうか? と笑った松川くんは、やっぱりとてもかっこよかった。同い年に見えないなぁ。短めのオン眉を撫でつけて、下を向く。気に入ってるけど、子どもっぽいかなって。大人っぽくてかっこいい松川くんがだいすきだけど、それと同時に少し遠い存在なんじゃないかって思っちゃう時がある。まるで、いつまでも、彼に恋していた片想いのわたしみたい。
「俺にもちょうだい」
「あっ」
カップを持つ私の手に、松川くんの大きな手が重なった。松川くんはそのまま、私の手からいちご味のフラペチーノを一口飲んだ。「甘っ」と言いながら離れた彼がコーヒーで口直しをする横で、持っているフラペチーノのように顔を赤らめる。
恋人っぽい。いや、正真正銘わたし達は恋人同士なんだけど。でも、わたしが松川くんに片想いしていた時間が長すぎて、今でもたまに夢なんじゃないかと思うの。まさか松川くんの彼女になれる日がくるなんて想像していなかったから。
「真っ赤じゃん」
「だって……間接キスじゃん」
「なにそれかわい
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大人な松川くんは間接キスの一つや二つ、なんてことないのかもしれないけど。お子ちゃまなわたしには刺激が強いのだ。
隣で笑う松川くんを空いている片手でパンチする。鍛えている松川くんには痛くも痒くもないグーパンチ。
「捕まえた」
「あ、ずるい!」
ポカポカ殴るわたしの拳は、簡単に松川くんに捕まってしまった。わたしの拳を丸々収めてしまう大きな手。温かくて、安心する手。
松川くんはそのままくいっとわたしの手を引いて、それで──
「こっちも甘いね」
「あ、わッ、わ!」
「あわわって」
また、肩を揺らして松川くんが笑う。わたしはもう彼にパンチを繰り出すこともできないくらいに顔が熱くて、熱くて。
捕まっていた手は、いつの間にか恋人繋ぎに変わって、離れないようにしっかりと結ばれている。せめてもの仕返しに、ぎゅっと力を込めたら松川くんもおんなじ強さで応えてくれた。照れ隠しに、えへへって笑って、さっきよりも半歩、彼との隙間を詰める。
「松川くんコーヒーの味した」
「オ・ト・ナの味でしょ?」
「ねえ、松川くんが言うとえっち」
大人っぽい松川くんと、子どもっぽいわたし。
いちご味とコーヒー味。
初めてのキスってレモンの味じゃないんだね。