02


「シマさん、面白い話何かある?」

「また来たのかじゃじゃ馬娘。ここはーー」

「ここは、私のような娘がくる場所じゃない。でしょ?分かってる分かってる。何度も聞いたわ」

「分かってねーから何度も言ってんだ」


下町の賑やかで明るい場所から少しだけ道を逸れると、薄暗い路地に繋がる。
本当に道が一本違うだけで街の騒音も遠のいていくし、気温は下がり湿度は少しだけ上がったような気がしてくるから不思議だ。

そんな薄暗い路地の先もまた、表側とは違う雰囲気ではあるものの騒がしくて彼らなりの活気というやつもあった。


シマはそこを取り仕切っている30程の青年だ。無精髭の所為もあって実年齢よりも老けて見えるが、本人はそれを見越した上で少し大きな態度をとる節もある。

何かの組織というわけでもないし、ここの連中をシマが集めたわけでもない。
どちらかといえば騒がしいのは嫌いな性格のシマだが面倒見だけは良く、そんなところが荒くれ者達の心を掴むようで、彼の周りには自然とそんな人達が集まってくる。


「お前みたいな小娘に教えてやることなんかねーよ」

「平和でなにより」

「はっ、お気楽なこった」


シマの周りには人と、情報が集まる。
アキラは表の人達の活き活きとした表情をその目で確認した後に、必ずシマに会いにくる。
シマの周りに集まる連中は、町の人たちからしたら少し擦れていて、その行動や思想は理解のできないものだと思われている。
ただ此処に行き着いた人たちから言わせてみれば、そんな表の人達のお気楽で平和な思考こそが理解のできないものだと思えるらしい。


相反する考え方があるのは仕方のないことで、どちらかが正しくてどちらかが間違っているわけではないこと。
それをアキラは分かっているからこそ、こうしてやってくる。


「そういやアキラ、食い逃げした男を絞め殺したっていうのは本当か」

「シマさんまでなんてこと言うのかしら。私がそんな野蛮な人間に見えるの?」

「いや、本当だったら怖え奴だなと思ってよ」

「シマさんって見た目によらず怖がりよね」


表で生活をしている人達は、彼らのことを凶暴で手のつけられない荒くれ者の集団だと思っていて、小さな子供達には裏路地には決して近付いてはいけないと教えているし、自分の子供がここに出入りしていることを知った親は泣いて引き止めるのだという。
そんな光景を見て何かが「醒めた」と漏らしたのは誰だったか。

見た目は確かに小綺麗とは言いがたく、それに加えて普段から他人を威嚇するような目つきでいるものだから、そんな風に言われてしまう理由も分かる。
ただ彼らのこの目は、自己防衛からくるものなのだ。


「アキラ〜!お前が好きそうな話あるぜぇ!」

「なになに!?」

「あらゆる村の不良共を片っ端からぶっ潰して回ってる連中がいるって話だ。村でも手がつけられなくて困っていたような連中をたった3人で全滅させちまったって」

「いい人達じゃない。少数の義勇軍か何かかしら」

「…いや、ただこいつらもこいつらで手に負えないような奴らしくてな」


よく分からない、と言った風に首をかしげるアキラ。


「お前はまた変なことに首突っ込むんじゃねぇぞ!俺は痛いのとか怖いのとかは専門外だからな!」

「シマさんそこに座ってるだけだもんね」

「アキラ!それは言っちゃまずいって!」

「どういう意味だこら」


笑い声の溢れる裏路地は今日も、ここの基準でとても平和だった。
居る場所が裏路地だろうが城下町だろうが田舎の村であろうが、そこで胸を張り自分らしく生きている人間は輝いている。
皆の笑う顔を見るのが大好きで、その笑顔がいつまでも続きますようにと願いを込めて、あわよくば笑う皆の輪の中に笑顔の自分を混ぜてはもらえないだろうかと。


「ここが城下町ィー?この前の村と変わらなくね?」

「昼間はどこもこんなもんだぁ。夜だぜぇここが楽しくなるのは」

「………………」


アキラの望みは叶うものなのか。


2.無防備な幸福論


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