01


「よく、来てくれたな。お前達。」

「ご無沙汰しております。」


日本の次期10代目候補沢田綱吉と、9代目の息子ザンザスとの後継者争いは、指輪に秘められた不思議な力によって拒絶されたザンザスが敗北し幕を閉じた。

ディーノと共に先にイタリアへと帰還したエミはこの先について考えていた。ヴァリアーは8年前力ずくで10代目の座を奪うためのクーデターを決行し、結果ボスであるザンザスを長い間失うこととなった。自分達にとって殺されることよりもどんな処罰を下されるよりも大きな損失。9代目という人はそういう人だった。


日本での治療を受けイタリアへと移されたザンザスと幹部達は人間離れしたスピードで回復しており、現在自由に動けないのはザンザスだけとなった。ザンザスは何も語ろうとしなかったし、周りの人間もザンザスやエミに何か問うことはなかった。それを聞かされたところで彼らのとる行動は変わらなかっただろうし、これからだって変わることはないだろう。それでも少しだけ、敗北というものに慣れていないヴァリアーは静かなように思えた。


ザンザスが寝たきりでなくなったのを見計らったように伝えられた本部への収集は、ザンザスと副隊長エミ、そして剣帝スクアーロだった。
十分な療養期間が設けられたのはヴァリアー側への配慮というわけでもなく、どちらかといえば9代目への配慮だった。車椅子に座る彼の左側に仕える沢田家光もまたスーツの下は包帯だらけである。

昔は9代目に呼ばれるとたちまち不機嫌になり、どうにか理由をつけて断っていたザンザスも今回ばかりは静かにそれに従った。もっともまだ暴れるほど体力は回復していないはずだが。ザンザスを乗せた車椅子を押すエミも、その横をついてくるスクアーロも今回は大人しかった。


「遅くなったが、お前達に処罰を言い渡す」


静かな部屋に家光の落ち着いた声がやけに大きく響いた。9代目は瞳を閉じてゆっくり呼吸をしている。私は9代目の優しくて残酷な瞳が嫌いだ。温かいのに時折見せる冷徹さ。ザンザスとは正反対のその瞳には何が映っているのか見当もつかない。


「独立暗殺部隊ヴァリアーは本日をもって解隊とする。」

「……………」

「そして、ボスであるザンザス、お前には…」


再び閉じられた瞳は一体何を思い何を映し出しているのだろう。
壮大な親子喧嘩の結末が今父親によって導き出されようとしていた。親子喧嘩と呼ぶには期間も規模も巻き込んだ人間の数も多すぎるけれど、やっぱりこの言葉が一番しっくりくるなぁと、こんなタイミングで思ってしまった。

愛し方を知らない父親と愛され方を知らない子供。血の繋がりはなくとも似た者同士であることに変わりはなかった。
どこから間違えていたかを今更追求したってやり直せるわけもないし、ふたりが掘り続けた溝はかなり深い。正解があったわけじゃない。これがこの親子の進んで来た道のりだから。そしていずれぶつかっていた壁であることは間違いがない。


「ザンザス、お前には特殊暗殺部隊その名もヴァリアーのボスを務めてもらう。」

「…………は?」


3人の声が揃ったことなんて今までほとんどなかったんじゃないだろうか。この時ばかりは普段うるさいスクアーロも、普段無口なザンザスも、そして私も。3人揃ってなかなか間抜けな顔をしていたに違いない。そんな私達の反応を楽しそうに眺める9代目は、家光に先を促されさらに意味のわからない【処罰】の説明を始めた。


「ヴァリアーの【独立】の名を返還し、9代目直属の【特殊】暗殺部隊として活動することを命ずる。その形態は今まで通りで構わない。しかしザンザス。お前の上にわしがいるということを忘れんようにな。」

「……クソジジイが」


かつて9代目の親友だったというお爺様が率いた暗殺集団は元々はボンゴレの所属ではなく、あくまで独立部隊としてこれまでボンゴレを支えてきた部隊だった。それはよくいえば自由にできるということ。そしてボンゴレ側からしてもいつでも切り離せる組織だということだった。その独立の名を返還し、9代目直属の組織になるということ。そしてその組織のトップを9代目より直々に任命されたということ。これを受けるということはザンザスは10代目候補から完全に外されることを承諾したということになる。
9代目直属という言葉ひとつにたくさんの意味が込められているのだろう。その何もかもを語ろうとしない9代目と、語られずとも全てを理解してしまうザンザスはやはり親子だと思う。


こうして私達は9代目直属特殊暗殺部隊ヴァリアーとして新たに生まれ変わることを命じられた。


知らない世界


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